​俳句結社「森の座」代表

横澤 放川と作品

腰ひとつ 「森の座」平成30年12月号掲載 

 

境涯はどこにも春の干蒲団 

男にもあるや春愁荒磯松 

春の人松の黝きへ近附ける 

少年まだ彼方を知らず朝ひばり 

犬ふぐり太陽風を観測中 

母衣(ほろ)むくや八朔に春ほとばしる 

にぎりしめたくなる真土春の葱 

霾天を薄汚なしと今年思(も)ふ

 

春耕や日本人も腰ひとつ 

耕と別につばくら縦横に 

くすくす 「森の座」平成30年11月号掲載

 

枯木立雲と同じに人通る

鉢の木といへりきそれを福島へ 

暖房車みんな赤子を見詰めては 

 

蒲団へと明日あしたともぐるかな 

 

さびしい人かなしい人にやあきいも 

 

ひりひりと天晴れわたる寒紅梅 

 

人間は投地してみよかいつぶり 

 

待春といふもひかりのなかのこと 

 

 子等を育てし曾住井の頭の動物園に立ち寄れば 

春光の金平糖をお口にぽい

春風が耳にくすくす兎馬 

石に置く 「森の座」平成30年10月号掲載

 

ほんしばしお遍路さんと同じ道 

紛れ立つ阿波のましろきお遍路と 

鈴をふる阿波の野辺(ぬのべ)のお遍路が 

玄鳥の玄あざやかに遍路みち 

 大窪寺 

春落葉掃くもみほとけ仕へかな 

落椿ひとつ遍路が石に置く 

夜すがらに夢かと思ふ丁字の香 

母亡きを夢かとぞ思(も)ふ丁字の香 

合掌をひらくや春光童女生る 

徂く春の白き雲ともまた訣る

 

苦味(くみ)の中  「森の座」平成30年9月号掲載

 

強霜や唸りて点る炊ぎの火 

寒の入鶉の卵割らで置く 

息つめて乙女顔寄す寒牡丹 

われ影をささんを畏る寒牡丹 

母亡くて其の名八千代の冬牡丹 

鉋屑みたいな背して日向ぼこ

 

救済(ひきあげ)を汝れもこぼれし冬の蠅

 

寒潮の河曳き入るる力かな 

寒雲のそこに鉤裂真ツ青に 

蒲団敷くことも人間苦味(くみ)の中 

国の空 「森の座」平成30年8月号掲載

鉄卸す轟音あとは冬至の日

年逝くと鯨尺には節ひとつ

煤掃の高き所は男かな

逝きそねの母逝きそねの年の暮

砂利を掻く音やたれかれ冬の中

寒晴を毎朝吸引精勤す

風呂敷のなににふくらみ寒椿

ぬばたまの夢の又夢寒蜆

冬萌へ蹴られて小石踊り入る

国の空なにをつなぎて凧の糸

 

置く雲 「森の座」平成30年7月号掲載

 

 

万燈を母亡き人として過る

ちちははの墓の外に棲む寒さかな

仏飯のやうに置く雲十二月

むし饅頭街頭慕情とめどなし

  講義への通ひ路に青森物産館はある

冬楽し大根千空赤蕪

梟の母喰鳥の鳴きにけり

大根の肩朝日子も乗り出して

冬の菊己れ零るるものもなし

蓮根のヒと糸を引く母ぞ亡し

母の亡き冬よ真ツ赤な鍛冶の火よ

なにとなし  「森の座」平成30年6月号掲載

 

曇るとは日のしづもれる冬の菊 

 

  平林寺 

一滴をこぼすや割るる冬の水 

なにとなし十一月の遠(をち)覚ゆ 

母の死のやうやく定か鳰の笛 

母はもう我を忘れず青木の実 

東京のまつただなかの冬の蠅 

もの舐むる切なきことを冬の蠅 

冬の蠅撫でて囲ひてやらむかも 

  福島県報道映像あらためて苦しやも 

そんなに深い眸で見るな冬の牛

 

冬の牛日本人を瞶(みつ)めけり 

糸車 「森の座」平成30年5月号掲載

日々のひかり喜べ貝割菜

 

茶席へと赴く襟か秋の人 

 

晩菊のひらくとあればはつきりと 

 

人の嘆など人のこと烏瓜 

 

藪虱母に抱かれし記憶無し 

 

喪ごころにきらりきらりと小鳥かな 

 

それゆゑ主は喜び播けり小鳥かな 

 

たが舟のたれへの舟の釣舟草 

 

立冬の土掃くことを見てゐたり 

 

糸車母亡き冬に入りにけり 

ちりんと 「森の座」平成30年4月号掲載

 

 

さびしさのお螻蛄泳がす遊びかな 

母恋のちりんとありぬ露の玉 

 

水に手を漱ぎたるより秋の人 

 

ゑのころも蓼も枯れては同じもの 

 

父母すでに昔(さき)つ代となり秋千草 

 

お祖母ちやん木守柿お母さん木守柚子 

 

ただのこの蚊帳吊草がなにゆらす 

 

人の子はさびし白粉花終る頃 

 

ほろほろと幼年こぼる数珠子玉 

 

ああ紅葉焚きをりました匂ひです 

なんとでも 「森の座」平成30年3月号掲載

萩の風おこして乙女擦れちがふ

露の世のお鈴に母を呼ぶべかり

これもまた豊食饌(とよみけ)の一柿ひとつ

雀にもたあんと仕事蓼の花

雀にも秋のをさめの蓼の花

雀には機織しごと蓼の花

天日のそりや曇る日も蓼の花

なんとでも花ゆゑ赤し蓼の花

犬を率てゆくことのみに清かさよ

汾くことも秋の泉は黙(しま)の中

うきわれ 「森の座」平成30年2月号掲載

冬の日やなにに見舫ふ川小舟

揖斐川をひと窪みさせかいつぶり

われ一語鳰の小鳥(をどり)はひとかづき

わが母もかくれ遊びやかいつぶり

曾良ゆかりの輪中長島大智院。

​此は同じく一向一揆惨劇の地にして

それさへも嬉し畳の底冷も

万両のややに奢れる蕉翁碑

うきわれと翁うきわれ冬の鵯

漆黒の大甕伏せて寒の寺

はらはらと大河へは出ず冬雀

寒凪や鳰乱すともひめくとも

なぜなぜ 「森の座」平成30年1月号掲載

ありてあるのみに初不二神さみて

初まりの箸畏めり鮟鱇鍋

鮟鱇の哀れをたかゑあんこ鍋

退り見てつくづく鮟鱇鍋のあと

それぞれに鮟鱇鍋のあとの黙

寒月もなにかへ急ぐ象にして

母隠しなぜなぜ赤い藪柑子

やすかたとこゑにしてみる浪千鳥

それ凌ぐものをけふ見ず霜柱

​冬牡丹母仏胸にやすらはす

 

 

茶立虫「森の座」平成29年12月号掲載)

 

ゆきずり暫し新秋畳表の香

無患子を仰ぎてみんな尉や姥

秋晴や小鳥屋主人外に憩ふ

 

  斎藤寛子さん

ははそはの母に汝も哭く茶立虫

生前をみんな忘れて曼殊沙華

挙げし旗棄つるもならで破芭蕉

颱風一過凄い青空ですねえ

手にさびし振りても風船蔓の実

父が母呼ぶ風ふうせん蔓の実

秋風は母の一遺児歩ましむ

 

二十八(「森の座」平成29年11月号掲載)

数間は走る雄鶏雁来紅

 

秋口の忽と鶉の卵かな

 

   掃苔

彼岸花哺(ふく)ます母は二十八

 

永遠の非戦ここより吊し柿

 

稲妻や心たばしるいまは鳴く

 

沼水は重たきものや蒲穂立つ

 

秋蝉が勝つか天日落ちきるか

 

まつさらな挽割板を立つや秋

 

退く風に鳴るとも秋の風鈴は

 

秋雲離々ひねもす籠り仕事なる

小渦(「森の座」平成29年10月号掲載)

新涼の故郷隣りてあるやうな

初秋や虹いろさして貝釦

ひやうと鳴り乙女爽々弓返り

弓台に弓は収まり秋の蝶

藁ないて縄紙切りて四手さやか

秋燕もいのち深まる玄さかな

秋彼岸魚を炙りて炭の鳴く

笑らかに五郎太石また捨南瓜

秋彼岸迷ひて老婆しやがみこむ

​流水は小渦まもらひ初野菊

流すのか(「森の座」平成29年9月号掲載)

旧盆やどこへ抜け出る路地の風

旧盆や家うち小暗さ寧けさに

森閑とて畳てふもの盆燈籠

静波のやうに興れり朝の蟬

旧盆や川瀬にをどる草の屑

踊唄なんぼ色よく咲いたとて

白玉の逃げて光れる母は亡し

送り盆かたみに言葉をさめ食ぶ

人の子は真菰の舟に母を乗せ

 

精霊の母流すのか流すのか

 

 

濡れ手より(「森の座」平成29年8月号掲載)

濡れ手より受くる釣銭夕涼し

蚕豆は祖母にむかせて貰ふもの

泣けもせぬ旱雀は口あけて

夜濯のほとりむつかるこゑのあり

   震災後正に流氓茅舎(かりや)に放置す

葭切にさへも寝につく葭のある

夕立あと出で来る犬が人間が

   閑吟集

金魚玉一期くすんで何せうぞ

   一休十七代山田宗正師の自在と深情と

枝豆を真珠庵主もほつほつと

灼けし手を焠ぐが如き泉なり

​スリッパにおのづと左右や夜の秋

ひとすぢ(「森の座」平成29年7月号掲載)

 

  巣鴨高岩寺

みんなとげぬいて貰ひに梅雨詣

 

年寄はみんな冷麦それでよし

 

なんにせよつくりて置ける麦茶かな

 

  大崎なる一保育所前を過るに

裸んぼみんな母者が生みたる子

 

朝涼や第二体操跳ぬるより

 

揚花火一人して見るものならず

 

此の国に白さ忘れず夏鷗

 

  母亡きのち伊勢原の山辺を彷徨せるに

花蜘蛛としぬびに聞くや風の歎

 

紅ひとすぢ祖母かや母かや冷素麺

余り風(「森の座」平成29年6月号掲載)

風鈴のなにの境の音か鳴る

 

もの音にあらぬ一韻夜の風鈴

 

おりんかと思ふ一韻夜の風鈴

 

風鈴に母の亡き世の音興る

 

風鈴の母を境つる音ぞ鳴る

 

さながら萬籟厭離一韻夜の風鈴

 

風鈴にまこと浄土の余り風

 

   また一昼故郷駿河のとある街頭にて

風鈴の百いつせいに讃歎す

 

風鈴の絶頂もはや来迎讃

遠そくよ(「森の座」平成29年5月号掲載)

さしも草さしも我等は戦後の子

早春の風とささめく水溜

 

大きくて黒くて鈍で春の蠅

 

春の水急がぬ水のほどけ水

 

厩舎へとみんな唱ひに春雀

 

筋金の糸となりけり凧不動

 

この国の風をまづ揉め初燕

 

青き踏み青き踏みなに遠そくよ

 

仏頭のやうな急がぬ春の雲

  押しあげてとや

初音あり創刊巻頭第一句

歩まんず(「森の座」平成29年4月創刊号掲載)

燕来て天は息づく地は馨る

朝日子をいま掲々と春の森

あるときは息深く来る春嵐

犬ふぐり春の徽章は道端に

行人はゆづりあふもの花茨

夜すがらに夢かとぞ思ふ丁子の香

花菜畑匂ふよ羽含もるやうな

にぎりしめたくなる真土春の葱

  家郷にありていまひとつの家郷「萬緑」を思ふ

帰りなんあらればしりの春没日

  そのいのちを継ぎて我等は「森の座」を興さんとす

草田男と春松籟と歩まんず

 

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