top of page

​俳句結社「森の座」代表

横澤 放川と作品

ひらかんか 「森の座」令和元年12月号掲載

  

泉辺に来て人間にならんとす 

父のこゑはた母のこゑ泉のこゑ 

永遠と時とのあはひ泉湧く 

睡蓮の咲く刻天も息つめて 

もくれんは仏指の如き実や零る

夏鷹の振り捨て発ちに一姿去る 

蓮巻葉世にひらかんか沈まんか 

あらためて歯磨き白し朝涼し 

ここも水ここも水水蟻迷ふ 

投票を済ましゆふすず雀かな

​

​

首翹げて 「森の座」令和元年11月号掲載

 

凄きまで入るや涼風西山荘 

青歯朶のひやひや戦ぐ御胞衣塚 

また一枚水に乗らなの竹落葉 

立札の下乗二文字ほととぎす 

杜鵑鳴くや清々西山荘 

ふたたびの杜鵑待つ首翹(あ)げて 

呍像の腹くわつと割れ涼しいぞ 

どんみりと霞ケ浦や蓮浮葉 

いつまでを残す瑠璃色蜥蜴の屍 

生涯のいつまた逢へる慈悲心鳥 

​

腰ひとつ 「森の座」平成30年12月号掲載 

​

境涯はどこにも春の干蒲団 

男にもあるや春愁荒磯松 

春の人松の黝きへ近附ける 

少年まだ彼方を知らず朝ひばり 

犬ふぐり太陽風を観測中 

母衣(ほろ)むくや八朔に春ほとばしる 

にぎりしめたくなる真土春の葱 

霾天を薄汚なしと今年思(も)ふ

春耕や日本人も腰ひとつ 

耕と別につばくら縦横に 

​

くすくす 「森の座」平成30年11月号掲載

​

枯木立雲と同じに人通る

鉢の木といへりきそれを福島へ 

暖房車みんな赤子を見詰めては 

蒲団へと明日あしたともぐるかな 

さびしい人かなしい人にやあきいも 

ひりひりと天晴れわたる寒紅梅 

人間は投地してみよかいつぶり 

待春といふもひかりのなかのこと 

  子等を育てし曾住井の頭の動物園に立ち寄れば 

春光の金平糖をお口にぽい

春風が耳にくすくす兎馬 

​

石に置く 「森の座」平成30年10月号掲載

​

ほんしばしお遍路さんと同じ道 

紛れ立つ阿波のましろきお遍路と 

鈴をふる阿波の野辺(ぬのべ)のお遍路が 

玄鳥の玄あざやかに遍路みち 

 大窪寺 

春落葉掃くもみほとけ仕へかな 

落椿ひとつ遍路が石に置く 

夜すがらに夢かと思ふ丁字の香 

母亡きを夢かとぞ思(も)ふ丁字の香 

合掌をひらくや春光童女生る 

徂く春の白き雲ともまた訣る

​

​

苦味(くみ)の中  「森の座」平成30年9月号掲載

​

強霜や唸りて点る炊ぎの火 

寒の入鶉の卵割らで置く 

息つめて乙女顔寄す寒牡丹 

われ影をささんを畏る寒牡丹 

母亡くて其の名八千代の冬牡丹 

鉋屑みたいな背して日向ぼこ

救済(ひきあげ)を汝れもこぼれし冬の蠅

寒潮の河曳き入るる力かな 

寒雲のそこに鉤裂真ツ青に 

蒲団敷くことも人間苦味(くみ)の中 

​

国の空 「森の座」平成30年8月号掲載

​

鉄卸す轟音あとは冬至の日

年逝くと鯨尺には節ひとつ

煤掃の高き所は男かな

逝きそねの母逝きそねの年の暮

砂利を掻く音やたれかれ冬の中

寒晴を毎朝吸引精勤す

風呂敷のなににふくらみ寒椿

ぬばたまの夢の又夢寒蜆

冬萌へ蹴られて小石踊り入る

国の空なにをつなぎて凧の糸

​

置く雲 「森の座」平成30年7月号掲載

 

万燈を母亡き人として過る

ちちははの墓の外に棲む寒さかな

仏飯のやうに置く雲十二月

むし饅頭街頭慕情とめどなし

  講義への通ひ路に青森物産館はある

冬楽し大根千空赤蕪

梟の母喰鳥の鳴きにけり

大根の肩朝日子も乗り出して

冬の菊己れ零るるものもなし

蓮根のヒと糸を引く母ぞ亡し

母の亡き冬よ真ツ赤な鍛冶の火よ

​

なにとなし  「森の座」平成30年6月号掲載

 

曇るとは日のしづもれる冬の菊 

  平林寺 

一滴をこぼすや割るる冬の水 

なにとなし十一月の遠(をち)覚ゆ 

母の死のやうやく定か鳰の笛 

母はもう我を忘れず青木の実 

東京のまつただなかの冬の蠅 

もの舐むる切なきことを冬の蠅 

冬の蠅撫でて囲ひてやらむかも 

  福島県報道映像あらためて苦しやも 

そんなに深い眸で見るな冬の牛

冬の牛日本人を瞶(みつ)めけり 

​

​

​

糸車 「森の座」平成30年5月号掲載

​

日々のひかり喜べ貝割菜

茶席へと赴く襟か秋の人 

晩菊のひらくとあればはつきりと 

人の嘆など人のこと烏瓜 

藪虱母に抱かれし記憶無し

喪ごころにきらりきらりと小鳥かな 

それゆゑ主は喜び播けり小鳥かな 

たが舟のたれへの舟の釣舟草 

立冬の土掃くことを見てゐたり 

糸車母亡き冬に入りにけり 

​

ちりんと 「森の座」平成30年4月号掲載

 

さびしさのお螻蛄泳がす遊びかな 

母恋のちりんとありぬ露の玉 

水に手を漱ぎたるより秋の人 

ゑのころも蓼も枯れては同じもの 

父母すでに昔(さき)つ代となり秋千草 

お祖母ちやん木守柿お母さん木守柚子 

ただのこの蚊帳吊草がなにゆらす 

人の子はさびし白粉花終る頃 

ほろほろと幼年こぼる数珠子玉 

ああ紅葉焚きをりました匂ひです 

​

なんとでも 「森の座」平成30年3月号掲載

​

萩の風おこして乙女擦れちがふ

露の世のお鈴に母を呼ぶべかり

これもまた豊食饌(とよみけ)の一柿ひとつ

雀にもたあんと仕事蓼の花

雀にも秋のをさめの蓼の花

雀には機織しごと蓼の花

天日のそりや曇る日も蓼の花

なんとでも花ゆゑ赤し蓼の花

犬を率てゆくことのみに清かさよ

汾くことも秋の泉は黙(しま)の中

​

うきわれ 「森の座」平成30年2月号掲載

​

冬の日やなにに見舫ふ川小舟

揖斐川をひと窪みさせかいつぶり

われ一語鳰の小鳥(をどり)はひとかづき

わが母もかくれ遊びやかいつぶり

曾良ゆかりの輪中長島大智院。

​此は同じく一向一揆惨劇の地にして

それさへも嬉し畳の底冷も

万両のややに奢れる蕉翁碑

うきわれと翁うきわれ冬の鵯

漆黒の大甕伏せて寒の寺

はらはらと大河へは出ず冬雀

寒凪や鳰乱すともひめくとも

​

なぜなぜ 「森の座」平成30年1月号掲載

​

ありてあるのみに初不二神さみて

初まりの箸畏めり鮟鱇鍋

鮟鱇の哀れをたかゑあんこ鍋

退り見てつくづく鮟鱇鍋のあと

それぞれに鮟鱇鍋のあとの黙

寒月もなにかへ急ぐ象にして

母隠しなぜなぜ赤い藪柑子

やすかたとこゑにしてみる浪千鳥

それ凌ぐものをけふ見ず霜柱

​冬牡丹母仏胸にやすらはす

​

茶立虫(「森の座」平成29年12月号掲載)

 

ゆきずり暫し新秋畳表の香

無患子を仰ぎてみんな尉や姥

秋晴や小鳥屋主人外に憩ふ

   斎藤寛子さん

ははそはの母に汝も哭く茶立虫

生前をみんな忘れて曼殊沙華

挙げし旗棄つるもならで破芭蕉

颱風一過凄い青空ですねえ

手にさびし振りても風船蔓の実

父が母呼ぶ風ふうせん蔓の実

秋風は母の一遺児歩ましむ

​

二十八(「森の座」平成29年11月号掲載)

​

数間は走る雄鶏雁来紅

秋口の忽と鶉の卵かな

   掃苔

彼岸花哺(ふく)ます母は二十八

永遠の非戦ここより吊し柿

稲妻や心たばしるいまは鳴く

沼水は重たきものや蒲穂立つ

秋蝉が勝つか天日落ちきるか

まつさらな挽割板を立つや秋

退く風に鳴るとも秋の風鈴は

秋雲離々ひねもす籠り仕事なる

​

小渦(「森の座」平成29年10月号掲載)

​

新涼の故郷隣りてあるやうな

初秋や虹いろさして貝釦

ひやうと鳴り乙女爽々弓返り

弓台に弓は収まり秋の蝶

藁ないて縄紙切りて四手さやか

秋燕もいのち深まる玄さかな

秋彼岸魚を炙りて炭の鳴く

笑らかに五郎太石また捨南瓜

秋彼岸迷ひて老婆しやがみこむ

​流水は小渦まもらひ初野菊

​

流すのか(「森の座」平成29年9月号掲載)

​

旧盆やどこへ抜け出る路地の風

旧盆や家うち小暗さ寧けさに

森閑とて畳てふもの盆燈籠

静波のやうに興れり朝の蟬

旧盆や川瀬にをどる草の屑

踊唄なんぼ色よく咲いたとて

白玉の逃げて光れる母は亡し

送り盆かたみに言葉をさめ食ぶ

人の子は真菰の舟に母を乗せ

精霊の母流すのか流すのか

​

濡れ手より(「森の座」平成29年8月号掲載)

​

濡れ手より受くる釣銭夕涼し

蚕豆は祖母にむかせて貰ふもの

泣けもせぬ旱雀は口あけて

夜濯のほとりむつかるこゑのあり

   震災後正に流氓茅舎(かりや)に放置す

葭切にさへも寝につく葭のある

夕立あと出で来る犬が人間が

   閑吟集

金魚玉一期くすんで何せうぞ

   一休十七代山田宗正師の自在と深情と

枝豆を真珠庵主もほつほつと

灼けし手を焠ぐが如き泉なり

​スリッパにおのづと左右や夜の秋

​

ひとすぢ(「森の座」平成29年7月号掲載)

 

  巣鴨高岩寺

みんなとげぬいて貰ひに梅雨詣

年寄はみんな冷麦それでよし

なんにせよつくりて置ける麦茶かな

  大崎なる一保育所前を過るに

裸んぼみんな母者が生みたる子

朝涼や第二体操跳ぬるより

揚花火一人て見るものならず

此の国に白さ忘れず夏鷗

  母亡きのち伊勢原の山辺を彷徨せるに

花蜘蛛としぬびに聞くや風の歎

紅ひとすぢ祖母かや母かや冷素麺

​

​

余り風(「森の座」平成29年6月号掲載)

​

風鈴のなにの境の音か鳴る

もの音にあらぬ一韻夜の風鈴

おりんかと思ふ一韻夜の風鈴

風鈴に母の亡き世の音興る

風鈴の母を境つる音ぞ鳴る

さながら萬籟厭離一韻夜の風鈴

風鈴にまこと浄土の余り風

   また一昼故郷駿河のとある街頭にて

風鈴の百いつせいに讃歎す

風鈴の絶頂もはや来迎讃

遠そくよ(「森の座」平成29年5月号掲載)

​

さしも草さしも我等は戦後の子

早春の風とささめく水溜

大きくて黒くて鈍で春の蠅

春の水急がぬ水のほどけ水

厩舎へとみんな唱ひに春雀

筋金の糸となりけり凧不動

この国の風をまづ揉め初燕

青き踏み青き踏みなに遠そくよ

仏頭のやうな急がぬ春の雲

  押しあげてとや

初音あり創刊巻頭第一句

​

​

歩まんず(「森の座」平成29年4月創刊号掲載)

​

燕来て天は息づく地は馨る

朝日子をいま掲々と春の森

あるときは息深く来る春嵐

犬ふぐり春の徽章は道端に

行人はゆづりあふもの花茨

夜すがらに夢かとぞ思ふ丁子の香

花菜畑匂ふよ羽含もるやうな

にぎりしめたくなる真土春の葱

  家郷にありていまひとつの家郷「萬緑」を思ふ

帰りなんあらればしりの春没日

  そのいのちを継ぎて我等は「森の座」を興さんとす

草田男と春松籟と歩まんず

Copyright (C) 2017 Morinoza 

Email:morinoza@eagle.com   tel:03-6902-2209  

​〒112-0015 東京都文京区目白台3-18-28

bottom of page