​「森の座」代表

今月の​横澤 放川 (よこざわ ほうせん)

しゆぼしゆぼと 「森の座」令和2年1月号掲載

 

己が身はそんなに炒るな油蝉

 

すつくりと夏毛正しく日本犬 

夕焼は過去の方へと衰ふる 

しじみ蝶発ちて白詰草ゆるぐ 

そばの実は風とむすべるものらしき

 

しゆぼしゆぼと水ヨーヨーや宵祭

 

そのあとが厭なものかな蠅叩 

囲の蜘蛛がそれとも国が逆しまに 

大仏の灼かれて坐(おは)す掻氷 

大仏の背に頓生の油蝉 

歩まんず 「森の座」令和2年1月号掲載

 

太箸が用意のものの中に見ゆ

 

復興といひては忘れ松立ちぬ

 

一望の冬田肝胆ぬくとまる

 

朝北風へいつそ翻き出でんかな

 

仁義礼智忠信孝悌龍の玉

 

遊び伽とよ龍の玉草帚 

少年期より赤かつし消防車 

寒晴や雀のこゑのしたたかに 

寒晴やぴりりぴりりと烏の目

 

寒晴や文字を忘れて歩まんず 

 

ひらかんか 「森の座」令和元年12月号掲載

 

 

泉辺に来て人間にならんとす

 

父のこゑはた母のこゑ泉のこゑ

 

永遠と時とのあはひ泉湧く 

睡蓮の咲く刻天も息つめて 

もくれんは仏指の如き実や零る 

夏鷹の振り捨て発ちに一姿去る

 

蓮巻葉世にひらかんか沈まんか 

あらためて歯磨き白し朝涼し

 

ここも水ここも水水蟻迷ふ

 

投票を済ましゆふすず雀かな 

首翹げて 「森の座」令和元年11月号掲載

 

凄きまで入るや涼風西山荘 

青歯朶のひやひや戦ぐ御胞衣塚 

また一枚水に乗らなの竹落葉 

立札の下乗二文字ほととぎす 

杜鵑鳴くや清々西山荘

 

ふたたびの杜鵑待つ首翹(あ)げて

 

呍像の腹くわつと割れ涼しいぞ

 

どんみりと霞ケ浦や蓮浮葉 

いつまでを残す瑠璃色蜥蜴の屍

 

生涯のいつまた逢へる慈悲心鳥 

 

 

齢かな 「森の座」令和元年10月号掲載

 

雲は往来一切自由田草取

 

田草取雲を拾ふといふやうな 

田草取ひとの膕かがやけり 

腰一丁勁きものかな田草取 

朝曇雀も先づはありくより 

ものうさの少年螻蛄を泳がしむ 

こゑはまづ母を呼ぶより雀の子 

蝙蝠を闇が我等を灯が待てり

 

塩蜻蛉ピリピリ人を煩さがる 

白玉のひかりまぶしき齢かな 

うすみどり 「森の座」令和元年9月号掲載

 

夏ひばり自由落下も楽しいか 

  酔裡頓言 

豌豆の家は掠らるる身は剝がる 

白浴衣生きて愛(は)しきは雀斑(かすも)さへ 

夕涼に湯あがりの肌いやさやに 

動かせば動く錆戸や青嵐 

施餓鬼棚小さき人かも棲み給ふ 

ままごとに似て水の実のあはれかな 

鬼子母神朝顔市をよろこべり 

すずしさの今朝は八一の鹿鳴集 

走馬燈過ぎてむかしはうすみどり 

 

 

 

真上より 「森の座」令和元年8月号掲載

 

 

睡蓮に来るも此の世の音ばかり

打水をなによりや砂利よろこべる 

十薬直(ぢき)指(し)天の笞(しもと)は真上(まかみ)より 

水車涼々音も潑々水馬力(みずばりき) 

光より遁ぐる人間黴の花 

我等にも雀にも来る晩涼は 

晩涼や一箇くるりと茹玉子 

湯あがりの清さに寄るや白暖簾 

虹立ちてなにともなくな胸さわぎ 

虹さびし虹うれしけふ虹悲し 

ひつじ刻 「森の座」令和元年7月号掲載

 

さわさわと孔雀奮へり荒南風 

畳屋は畳刺しをり清夏なり 

頷きて休む力車や祭前 

少女にも結ぶ靴紐立翅蝶 

夏点前菓子に敷くには惜しき紙 

  夏泊 

どの顔も浜昼顔は海に向く 

みちのくの蟻や胸辺へ高あがり 

今生は光欲しさよ睡蓮も 

浜で鳴き仔雀ももう浜雀 

赤子泣き未草にはひつじ刻 

ゆめかさご 「森の座」令和元年6月号掲載 

 

夜の雲白くやすらひ聖母月 

初夏や刈り込みすぎて首さびし

 

マリア月花屋は花と水に満ち 

信濃境小学校の花胡桃 

青年は無印の旗夏つばめ 

牛がをり牛の蠅をりしたたかに

 

みどりの夜赤子ながらに深寝息

 

青梅や少年すでに指の節 

母のこゑ卯波のこゑはあざかへし 

水揚のそいゆめかさご初南風 

喉つづみ 「森の座」令和元年5月号掲載 

 

山の子に鯉より泳ぐ鯉幟 

ぼうたんに韓くれなゐの神ぞ憑く 

夏若し尋(と)めんへむしろ友の来る 

初夏のうすさみしさとほどの雨 

花胡桃ものの兆しのひそかさに 

白雲が来るだけでいい花胡桃 

濡れて行くかへつて潔し新樹雨 

麦の秋待たされて犬喉つづみ 

  十二使徒よ 

鳩羊星魚十字架麦の秋

 

船は水脈花と賑はし青葉潮 

とんちんかんちん  「森の座」平成31年4月号掲載 

 

それ春日没るな没るなと湯玉沸く

初花や後生々々の後生車 

鶏が場(には)木(き)にのぼり神の春 

花の塵指を痛めて字の乱る 

空耳のとんちんかんちん目借時 

ふれもせで赤く散るなりさくら蕊

 

八重桜瞼重りのやうにかな

 

八十八夜魚を捌くと真水打つ 

八十八夜鶉の卵動きさう 

花ゑんど農夫無聊の外歩き 

帰りなん 「森の座」平成31年3月号掲載  

 

春の水雲乗り来たるさざめきに 

戻り寒忘れて寝れば明日になる 

おすましの色めざましき二ン月菜 

身をよぢり踊る涅槃の花鰹 

鉛筆はくるくる削る初燕 

燕の尾日本一の働く尾 

ゆふつばめ人のこころのさしもつれ 

帰りなん夕恋ひ鳥の春の鵯 

春も馬流し走りとなるやうな

 

永日の香をこぼるる白き灰 

千五百たび 「森の座」平成31年2月号掲載 

草木瓜の朱やいのちの第一色

 

石にさへ矢は立つ況して葦の角 

とりわけや白魚盛ると白き皿 

苜蓿ほどの低さも風の訪ふ 

さびしさへ道を逸るれば花茨 

日永さのながくしたとて亀の首 

不忍はすこし空あるつばくらめ 

ひとびとや上野の春の小永さに 

その水へ燕五百(いほ)たび千五百(ちいほ)たび 

春の松肩にちからは要らぬかな 

かけまくも 「森の座」平成31年1月号掲載 

昔より若水迎へ星まみれ 

若井汲む女人の元へ男汲む 

若水と呼ばれてふくらふくら沸く 

かけまくもただに不二やま大旦 

応応と松籟わたる破魔矢かな 

めでたくもなにや咥へて初雀 

いやさらに大地病んめる鏡餅 

  国の春 

才蔵も太夫もとつとと逃げまして 

一白のかはひらこかな凍つるかな

 

冬ざれや錣(しころ)さながら軍鶏一羽 

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