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​「森の座」代表
今月の​横澤 放川 (よこざわ ほうせん)

「ぴりぴりと」 2026年  10月号掲載  横澤放川

 

身顫ひの音高らかに凧揚がる

躱し身を楽しみ散る葉竹の秋

春松籟われを何処(いづく)へ運ぶべき

石鹸玉神は不思議なもの創る

日捲りのきのふの春のひと日捨つ

春耕の頭よくなりさうな音

コンビニのどこかへ巣藁ひく雀

かたばみをぴりぴりと引くさびしさよ

天道虫のぼり尽きたるゆゑに飛ぶ

文字摺草人界どつち捩れたる

 

「ざわめいて」 2026年  9月号掲載  横澤放川

 

感染拡大毒が抹香花樒

古葦をまだ凌げずに葦青む

縛られて寄せられ何処へゆく苗木

永き日ののこりもせぬに輪を描く鳶

心(うら)で哭くものを鬼てふ春霖期

いつまでも朝茶のときを恋雀

疫病(えやみ)禍の春や田端の駅を過ぐ

みんな貌隠して春の日本人

  七沢温泉近傍にて

別れ霜ここも線量記録せる

人間のざわめいてゐる柳の芽

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「うれしさよ」 2026年 8月号掲載  横澤放川

 

目つむれば見えてくるもの夕雲雀

こつくりと分葱一本折れてゐる

春の蕗うらさびしさに犇めける

歩むなり春松籟の呼ぶ方へ

春林を洩るる光のあざあざと

春林をさびしさとゆくうれしさよ

春林をうれしさとゆくさびしさよ

ちりぢりに吾子どち生くる酸葉かな

吾子遠し土手はすかんぽなづなかな

末子すら三十路を歩む土手酸葉

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「面輪かな」 2026年  7月号掲載   横澤放川

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母びとのしたゑましげに苺買ふ

疳取草(かきどほし)末子ちつとも音沙汰無し

春の薔薇幼女いづれも面輪かな

  カトリック神学院講義開始

山楂子の花よ中浦ジュリアンよ

物音の四方に立ちては春なかば

五月来ぬ炊事洗濯拭掃除

春の蕗もう葉の蔭といふをもつ

歩むなり春松籟の呼ぶ方へ

春さびし可惜(あたら)身命唱へられ

惘然と自粛しをれば蜂光る

 

「さしあがる」 2026年 6月号掲載  横澤放川

 

春の蕗きれいな糸を引きにけり

さくらえび祖父母並びに父母どちよ

苧環の立茎五本すつきりと

山独活の搬びこまれぬ駅の市

まだ水に恥ぢらふやうに水草生ふ

訣れては一生逢はずに花樒

ほとりまで下れば光る柳鮠

春月のなほさしあがる隔離船

鶯の法とひきよせては法華 

清明や外に出て見る夜の雲

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「にしひがし」 2026年 5月号掲載 横澤放川

 

春彼岸水にゆりあげ絹豆腐

   狂言緡(さし)縄(なは)の当て口を藉らば

今年花散つてしまふがよいわいやい

紋白を追ふ眼つまづき易きかな

繁蔞や母と一(ひと)生(よ)をにしひがし

いま胸辺過ぎりし蝶のなつかしき

都川へと身棄つるごとし春の雪

斬り込んでたちまち高しつばくらめ

卓上を春の玉子の遠ころげ

雀の子鳴くと暮光の募るかな

三年喪始まりけらし春霖期

 

「やや揺れて」2026年 4月号掲載  横澤放川

 

忿怒像突つ張る枝垂桜かな

  倭名類聚のむかしより

衣夜美(えやみ)とぞ度岐乃介(ときのけ)とぞも春を籠る

春の雪ふる音楽は熄みぬべし

けふはやや揺れて舫はれ白魚舟

つくろへる胸の浮毛も春雀

料峭や鶏つぶすことわりなけれ

鉄屑はせいぜい積むに揚雲雀

翹望といふべき高さ揚雲雀

人災を高きに告げに揚雲雀

われいつしいのちほそれる夕雲雀

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 「牡丹雪」2026年 3月号掲載   横澤放川

 

山楂子の花はや聖水受のごと

可惜(あたら)そのひかりを孕み春の露

なにいろといふにはいへね春の夕

初蝶の舞ふよりはまづひた走(ばし)り

勤しまん日ごとに殖えて犬ふぐり

剝き終へて祖母の遠そく春の蕗

  国松恵子氏より

荒川も鴻雁北すとの便り

深渓へ一箔片や紋白蝶

  三月我に吾子等に尽きんとす

其月の雪霏々と花霏々とかな

もう母のなき吾子どちに牡丹雪

 

「くゆらすのみに」2026年 2月号掲載  横澤放川

 

真椿の一糸乱れぬ蕊の筒

さつきから覘(み)てゐるこども梅林

三月に入らん微かな怖れあり

さくらどき籠りどき身の諫めどき

燦々の海をしりへに恋燕

その黄縞虚勢にあらず蜂怒る

一炷をばくゆらすのみに復活祭

弟をよく泣かせたり葱坊主

さみしさの浮いて沈んで春の川

人間のざわめいてゐる柳の芽

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「ありしのみ」2026年 1月号掲載   横澤放川

 

初すずめ相も変らず軒すずめ

こゑのみのこゑの久しも初雀

年縄のへたのささくれなぜや見ゆ

さえの神こんなたくさんこどもたち

太神楽咬んで貰つて祓はれて

いかのぼり故郷の空はありしのみ

なにもなきもののほとりも飾り藁

寒雀わが方寸にささやきに

蓬莱につぎは生まれよ寒雀

少年ら焚火を煽る祀るがに

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「遅日光」2025年 12月号掲載  横澤放川

 

春の雲近い雲より遠い雲

葉山鐙摺港 五句

あかあかとこゑにこゑのせ双(もろ)燕(つばめ)

荒東風にいま全力の風信器

風切を十指とひらき春の鳶

  悲しければこそ

さあけふを春の佳き日に波のむた

春の鵜ののつと潜りてあともなし

紅梅に真ツ青な夜来るべし

小疣また母のたまもの遅日光

あめつちのあはひを交みつつこぼる

縛られて寄せられ何処へゆく苗木

 

「文字摺の」2025年 11月号掲載  横澤放川

 

こゑとなくしづかに躁ぐ白梅林

もう目鼻要らぬ小仏鳥帰る

  永訣

春日の仰ぐそばから滾れつぐ

春すずめ人間(じんかん)などにもう寄るな

人わかれ辛夷花咲く頃が来る

白梅の蕊や徐かに旭の分くる

白梅を薄明しばし寝かしめよ

あたたかくなどして時の移ろへる

春老いて汪然涕泣いまは無し

文字摺の一文字子等に母は亡し

 

「春の轍の」2025年 10月号掲載  横澤放川

 

紺青の海へ挿しかけ焼(やい)嗅(かがし)

春陰のさあれひそかに川光る

板軒の祠に涅槃し給へる

母恋や春の轍の深さにも

店頭の芹の青さに立止る

犬ふぐり低きもの萌ゆ逸早く

犬ふぐり石は咲けねど日向石

山鳩が土を踏むたびあたたかし

うらうらとわれは祖母より寿齢(いのちなが)

三月に入らん微かな怖れあり

 

「春楽し」2025年 9月号掲載  横澤放川

 

笹鳴や石仏なれど耳の朶(たぼ)

白梅や瑞(みづ)歯(は)含(ぐ)むより人となる

手を洗へ嗽げとよ四旬節

赤子のよだれ爺ぢのよだり梅の春

赤ん坊の手(た)握(にぎ)るつよさよ梅の花

みな小尻立てては跳ねて春雀

春楽し雀食べてはちつと屎り

朝東風は黒い頭の雀にも

沈丁の香のおかあさんおばあちやん

春の暮ものも暮れゆくものよなあ

 

「呼子鳥」   2025年 8月号掲載  横澤放川

 

春月のなほさしあがる隔離船

もう誰のものでもなくて懸り凧

白梅の咲くと発止と仁王の掌

蕗の薹わがてのひらを蓮台と

白梅の土に煩さや人の塵

春の鵜のとろと潜りぬとろと出ぬ

靴紐のほどけ易さよ初すみれ

夕まぐれときは雀も呼子鳥

海山はこども攫ひぬ呼子鳥

ひよめきのやうなさゆらぎ春の泉

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「荒川河畔ふたたび」2025年 7月号掲載  横澤放川

 

一瓣の一瓣の花白鳥よ

白鳥のほとりは光ありとのみ

白鳥に曇天折りに悪相に

白鳥の凱歌のごとく羽ばたける

白鳥の嘴の黄母に貰ひたる

白鳥をはつと和毛のこぼれけり

白鳥に天日頽(すた)れざらんとす

白鳥を見つめゐたりし眩暈かな

この白鳥思ひに倦むか流さるる

白鳥と訣る純潔なる者と

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「深谷川本荒川河畔」2025年 6月号掲載  横澤放川

 

白鳥に逢はんずる胸逸るなり

白鳥に曇天一画碧く割る

白鳥にかさね白鳥眩しさよ

白鳥のやよ白鳥のかたちせる

白鳥と置く水影とひとつひとつ

白鳥は腋の熱さに羽搏きぬ

白鳥に立てる水煙湯浴みめく

白鳥の群を彼方に沢鵟来る

白鳥の発つや連れ発つ美しさ

日がこぼれ始め鵠のこゑこぼれ

白鳥群流木どちも寄せ合へる​

 

「郁太郎とよ」 2025年 5月号掲載  横澤放川

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痛さうな寒苦雀のはたたきは

冬雀それと聞こゆるかそけさよ

郁太郎郁太郎とよ寒雀

よく鳴いてよく食べてゆけ寒雀

寒鯉にややに煩さき注ぎ水

うたかたのさわくと別に寒の鯉

身の影は常に身に添ふ寒九光

冬の日が根気でほぐす蝶の翅

もうすぐに一撃喰らふ寒卵

いまありし冬の弱星見失なふ  

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「馬引沢いまも」2025年 4月号掲載  横澤放川

 

こぼるる天日かそけくゆらぐ冬泉

熱き指冷すにかなふ冬泉

紙垂白く幣いや白く冬泉

もう直に春の泉と汝を呼ばん

冬泉水といふもの息をせる

   青梅吉野街道

もうそこに摑める春よ日の土間よ

春めく土間草田男招じ来たかりき

寒土用徐かに落すミシン針

寒月や沖繋りせる隔離船

節分の部屋へ光のはや逸る

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「そむきあひ」2025年 3月号掲載  横澤放川

 

深冬晴すずめ放たれ嚥まれぬか

一陽来復きれいにほぐれ粗の骨

迷彩の鶉の卵冬至光

寒暮光いのち細りとしもなくも

歳晩店頭鰈鮃とそむきあひ

寒菊のほとけの花として育つ

湯豆腐のくらりくらりと掬ひごろ

紅唇と擦れちがふなり寒巷

冬木の芽なにをにぎりて赤ん坊

冬うらら蹤いてきさうな跳ね雀

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「のぼらせて」2025年 2月号掲載  横澤放川

 

冬麗やしたたるばかり黒鴉

冬の日は蜂の生毛に分け入れる

雪吊の大鳥虜(とら)へたる如く

なにもかもよすぎ仕舞ひて神遊び

こどもたち膝をそろへて里神楽

夜神楽の畏こ畏このこどもたち

いやさらに御神楽獅子は畏(こは)きもの

師走とござい猿(ましら)に糸をのぼらせて

逝く年や糸いつぽんに括り猿

日向ぼこ眠くなるもの数へ唄

 

「青小笹」2025年 1月号掲載  横澤放川

 

泣きにゆく裏山もがな小六月

うしろみのやうに静かな小春山

冬山の合せ襟めく親しさよ

自転車は放り出すもの枯堤

瀬頭のしろじろと待つ冬至かな

層雲を解かん一鑰(いちやく)冬ひばり

被告席めける高みに冬の鵙

柴漬の中にまぎれて青小笹

柴漬を一日だれも揚げに来ず

寒菊のほとけの花として育つ

 

「ひとかけあらば」2024年 12月号掲載 横澤放川

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晩菊のずつと向かふを母のやう

踏めば鳴る落葉無精に踏みわたる

眠る山ひとつふたつはみなつつが

鷹仰ぐゆゑに我等に風の来る

到来す空也の痩の乾鮭が

乾鮭のひとかけあらば千空と

空也の痩一遍の痩薬喰

待降節ゆふべゆふべの濁るとも

冬蔦や日課正しく修道女

冬蔦も悶え縋りてつひに攀づ

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「はづまんず」2024年 11月号掲載 横澤放川

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保育園きのふけふあす落葉掻

柴犬のさながら正座冬日中

いくらでも散る山茶花のけふも散る

白玉の泡ひとつ吐き冬泉

はづまんず冬蜆蝶へと冬蜆蝶

乏しむな冬蜆蝶へと冬蜆蝶

花茶垣朝から唄ふ保育園

日に討たれ屈せしさまに冬の蜂

冬の蜂仮面とり憑き離れない

己が身の日を舐めてをり冬の蜂

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 「風の疵」2024年 10月号掲載 横澤放川

 

枯葦の近づき行けばぞめきだす

枯葦がしいんと我を瞶(みつ)めゐる

枯葦の奥にありあり日の烟る

枯葦の折れたるもはや臥せたるも

枯葦に探し疲れて風ひそむ

枯葦の中から人形抱く少女

枯葦は戦ぎ杙は立ち尽くす

枯葦のもとになんでも来て溜る

枯葦へひらきつやつや稲荷鮨

枯葦や水の上には風の疵

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​「もうすぐに」2024年 9月号掲載 横澤放川

 

しがらみを抜けてしがらみ木の葉時

けふいくつきのふはいくつ花茶垣

花茶垣小喜びならどの家にも

ここで産みここに栖むひと冬野菊

時雨傘まことしぐれとほどの濡れ

赤ん坊はおつむもくるめ木守柚子

畠あれば畠隅のある冬小菊

もうすぐに日のまはりくる冬小菊

石塊も温かきもの冬の蠅

冬の鵯薄暮は人をいたぶるよ

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 ​​「容赦なし」2024年 8月号掲載 横澤放川

 

​きりきりと晴れ鎮もりて鵙の天

双眼鏡いまあらば鵙我のもの

鵙ツ子の怒り狂へば幹を駈く

  中村明子さんよ

おもひでのいまにこまやか楡もみぢ

立冬やここぞと光る黒瓦

天井に虻が一点冬立ちぬ

初冬や雀は常の弾みやう

心配してくれなくつても帰り花

冬畳こぼれて飯粒(いひぼ)持仏めく

枯蟷螂上天青さ容赦なし

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​「離るなよ」2024年7月号掲載  横澤放川

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貝割菜いのちたちまち土を割る

貝割菜降れば光はふんだんに

白菊や情はしづかに裹むもの

秋雲の端(は)にすがる雲離るなよ

ものこぼしものをひらひて秋の風

行楽の雲よと呼ぶも言さやか

叔父伯母も昔むかしや菊枕

時の歩の芋茎にのこす赭き色

秋の畠ものの仕舞ひの火は尊と

晩菊捨つ仏づとめの終りたる

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「鳥沢猿橋」2024年6月号掲載 横澤放川

 

​朝顔の紺はゆづらぬ終の花

白粉花やちまちま遊ぶ童女たち

立挙(たてあげ)のやうな容の紅葉山

まあここの石に坐れや小春雲

深葛のままに末枯兆したる

枝ほきと枝ほきとかな柿を採る

竿一人受け手が一人柿を採る

青空に塗つたるかなの柿のつや

冬の鵙青天井に名乗り出づ

冬鵙のだんまり遠く犬の吠ゆ

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「一熟柿」2024年5月号掲載  横澤放川

  

魚を焼くその間も秋の時移る

金柑と金柑みたいなお婆さん

老人福祉記録映画を観んとて川越へ

スカラ座を探して歩く秋日和

柿ひとつかかる立志の色もある

少年に薄々夏の頃の疵

桐の実に青空負けて居れずなり

靴紐へかがむときにも秋高し

青空も次第につやや実り柿

すつぽりと祖母のおもかげ一熟柿

末枯や郵便受は赤く待つ

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「みんな逃ぐ」2024年4月号掲載  横澤放川

    

蟷螂の卵(かひ)生みつづく日の急ぎ

柞葉の家かのごとく流さるる

三猿のやうな老婆ら在祭

無花果はもう実も無いに尉鶲

すぐそこへまた鳴きに来る馬鹿鶲

白粉花の二三まじれる砂場かな

きりきりと鵙悔しがるみんな逃ぐ

高晴や鵙の仕業の毟り羽根

秋薔薇を剪つて忽ち乏しさよ

鰯雲森川信のおいちやんやい

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「太虚のみ」2024年3月号掲載  横澤放川 

  

草の花川が忘れし川蒸汽

渡り鳥丸太幾とせ横たはる

干網がなにが嬉しい秋の蠅

  静浦にて

凄絶の青き高みを渡り鷹

真ツ青であることそれが鷹の天

椋鳥渡るさらに高みを鷹渡る

天鷹のひとたび決し矢と渡る

東海の子に紺天の渡り鷹

鷹いまし渡りしのちは太虚のみ

鷹渡しきりし太虚のさびしさよ

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「あそびけり」2024年2月号掲載  横澤放川

 

大川の微かな油膜秋曇

大川へ舫ひ解く舟雁渡し

畳屋はさもあけひろげ秋の風

神学生五人尊し金木犀

赤とんぼ宮田の自転車走つて来い

祖母恋しかやつり草を蟵にして

宵月のむかしは門(かど)にあそびけり

少年にも一分の侠気鵙のこゑ

入込みに嵌りて食ぶる秋曇

仏具屋がなにや慕はし銀木犀

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​​「ひかるなり」2024年1月号掲載  横澤放川

 

このごろは雲かろがろと胡桃の実

あをあをと秋のすすみや胡桃の実

白萩を風はいつまで忘れゐる

椋の木の椋鳥を騒がす秋静か

秋灯下薄は影も投入れに

嬉しさはさもこぼるるよ蔓むかご

秋風にこころ紙帛のごとく鳴る

この世はな曼珠沙華さへ雨に濡る

白く咲くさびしくないか曼珠沙華

白露に束の間の時ひかるなり

 

「忘れては」2023年12月号掲載 横澤放川

 

秒針に秋ひやひやと刻々と

雄鶏立ち雌鶏坐る秋の土

曼珠沙華赤しその茎真青さに

ものこぼし父母こぼし露の秋

秋霖が涛打つ涛が己れ打つ

お白粉や人睦みては諍(さか)ひては

稲雀逃げて散らつて集まつて

流亡はいまもどこかで稲雀

忘れては思ひ出でては威銃

忘れては己れ驚く威銃

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​「うかうかと」2023年11月号掲載 横澤放川

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ほきと折り水に挿すべし秋海棠

新涼やさくりさくりと鍬鳴かす

葡萄一粒草田男一句と甲乙なし

連嶺のどの嶺撃つたる威銃

魚店の前に足止む秋めくよ

店の魚みんな泪目白露なり

白露この夜は泣くなよ夜泣石

ご不浄となんどいふさへさやけさよ

赤とんぼ止まる止まらぬ止まりけり

うかうかと生きてゐるから威銃

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「たれならん」2023年10月号掲載 横澤放川

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月代や今朝の箒目そのままに

かもかくも勿体なさや盆の月

月代のなにくるほしといふでなく

月光の香のごとくに降りそそぐ

たれならんけふを白露と名づけしは

けふ白露慎しみ啼かず暁烏

白露読む三千世界といふ言葉

けふ白露なににもあらず泪ぐむ

魚買ひて帰る男も白露かな

病子規のそして亡父の秋海棠

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「そのままに」2023年9月号掲載 横澤放川

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浮雲はどうせ去るもの白嫁菜

朝さやか山鳩さやか喉で啼く

秋日和うかうかと出て蜘蛛走る

坐す人のほとり得て坐す秋立ちぬ

どの家にも今日といふもの花木槿

月代や今朝の箒目そのままに

月光をうましうましと岩の心

木には神草には仏露月夜

われのみのわれにとなくに盆の月

嗚呼といふ口して仰ぐ盆の月

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「眉目動く」2023年7月号掲載     横澤放川

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雲の峰出されて皿の平一枚

雲の峰こころ動きて眉目動く

落蟬の赤子さながらひとぐづり

松葉牡丹末子唱はぬ日とて無し

松葉牡丹ともに棲む日々短かさよ

松葉牡丹悲しい日なら目を閉ぢて

活栓のひそまりかへり夏休み

呼鈴をしつかりと押す日の盛

晩涼や双耳弛めず日本犬

割り卵黄身を堪へて朝ぐもり

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「こゑやこゑ」2023年6月号掲載    横澤放川

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音もなくすすむ齢や竹落葉
朝曇車中赤子のぐづりごゑ
白雲は芯といふ無し青胡桃
白粉花や犬洗はれて貧相に
座頭虫こども抓んでしまひけり
団子虫筬虫放川鋏虫
六月や空も本来水に満つ
新生即更新泉のこゑやこゑ
流燈会流しながらにあとを追ふ
きのふけふあすかな松葉牡丹かな
 

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「あげませう」2023年5月号掲載     横澤放川

​

洞窟出てヒトは何した猫の恋
  福島に春幾たび
白蠟のやうに三月不幸かな
  かつて波崎にて出会ひし
寝釈迦(ののさん)に花あげませう子供たち
永き日の母来たり祖母帰つたり
永き日の気ぜはしきもの雄鶏は
もんしろもこどもも止まること知らず
ひらひらと世にこどもかな蝶々かな
春の蠅刹那ほとけの彩させる
うらうらと痛点溶けてゆくやうな
永き日の風に忘られ風見鶏
 

 

「きのふより」2023年4月号掲載   横澤放川

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もの湯掻きゐる早春のかたときよ

けふは春寒しとなさず家を出づ

手をかざすさへまぶしさよ猫柳

きのふよりけふがかがやか蝶生まる

初蝶のどこへ逸るるも日にまみれ

人寰のあれば隅あり沈丁花

犬ふぐりひとつひとつが己が位置

うらうらと軒は古るとも雀口

白梅や飴の中から薄荷の香

白梅や胎児はおのれ握るのみ

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「風紋も」 2023年3月号掲載    横澤放川

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わかしほに乗り春光へ春潮へ

上総なり一宮なり初燕

  上総は昔日ちちははの流離の地にして

なにかなし総のほとりの春草が

この土手も土筆の頭焦げる頃

われわれに信ずる明日か土筆摘む

つくし摘む指に思ひ出うすみどり

自転車を下りて持つまま春の海

  旧作〈父恋し氷の旗の浪千鳥〉は当地を追懐せし坦懐にて

風紋も春愁もそれ繰り返し 

一家族ほどの足迹春渚

補陀落はやはりありさう春の海

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「ほぐすより」2023年2月号掲載   横澤放川

 

青空と信じ青空寒土用

  千空よ

ぬばたまの夢の又夢寒蜆

鷹揚りゆくとき我も身をる

風呂吹の眠るごとくに透きとほる

ひりひりと天は青磨ぎ寒中梅

冬晴へ歩むはむしろかるがに

春隣綱に甘えて船軋る

小膝より人は衰ふ鳥雲に

ほぐすより古縄は切る垣手入

きつといい母さん春の干蒲団

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「春子なり」2023年1月号掲載   横澤放川

 

しつとりとみどり子睡る笹粽

笹粽ちちはは遠く育ちけり

畳屋は香りの仕事夏立ちぬ

清和なり薬罐に水を注ぐさへ

我もまたに出たり夏雲雀

堤塘を若き父母初南風

麦秋やいのちに噎せて少年期

農夫地に大工足場に夏燕

かたばみの花年々の神学生

春子なり豊干の拾ひたる子なり

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「歩まんず」令和2年1月号(創刊号)掲載  横澤放川

 

太箸が用意のものの中に見ゆ

復興といひては忘れ松立ちぬ

一望の冬田肝胆ぬくとまる

朝北風へいつそ翻き出でんかな 

仁義礼智忠信孝悌龍の玉 

遊び伽とよ龍の玉草帚 

少年期より赤かつし消防車 

寒晴や雀のこゑのしたたかに 

寒晴やぴりりぴりりと烏の目 

寒晴や文字を忘れて歩まんず 

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