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​「森の座」代表
今月の​横澤 放川 (よこざわ ほうせん)

「うかうかと」2023年11月号掲載 横澤放川

ほきと折り水に挿すべし秋海棠

新涼やさくりさくりと鍬鳴かす

葡萄一粒草田男一句と甲乙なし

連嶺のどの嶺撃つたる威銃

魚店の前に足止む秋めくよ

店の魚みんな泪目白露なり

白露この夜は泣くなよ夜泣石

ご不浄となんどいふさへさやけさよ

赤とんぼ止まる止まらぬ止まりけり

うかうかと生きてゐるから威銃

「たれならん」2023年10月号掲載 横澤放川

月代や今朝の箒目そのままに

かもかくも勿体なさや盆の月

月代のなにくるほしといふでなく

月光の香のごとくに降りそそぐ

たれならんけふを白露と名づけしは

けふ白露慎しみ啼かず暁烏

白露読む三千世界といふ言葉

けふ白露なににもあらず泪ぐむ

魚買ひて帰る男も白露かな

病子規のそして亡父の秋海棠

「そのままに」2023年9月号掲載 横澤放川

浮雲はどうせ去るもの白嫁菜

朝さやか山鳩さやか喉で啼く

秋日和うかうかと出て蜘蛛走る

坐す人のほとり得て坐す秋立ちぬ

どの家にも今日といふもの花木槿

月代や今朝の箒目そのままに

月光をうましうましと岩の心

木には神草には仏露月夜

われのみのわれにとなくに盆の月

嗚呼といふ口して仰ぐ盆の月

「眉目動く」2023年7月号掲載     横澤放川

雲の峰出されて皿の平一枚

雲の峰こころ動きて眉目動く

落蟬の赤子さながらひとぐづり

松葉牡丹末子唱はぬ日とて無し

松葉牡丹ともに棲む日々短かさよ

松葉牡丹悲しい日なら目を閉ぢて

活栓のひそまりかへり夏休み

呼鈴をしつかりと押す日の盛

晩涼や双耳弛めず日本犬

割り卵黄身を堪へて朝ぐもり

「こゑやこゑ」2023年6月号掲載    横澤放川

音もなくすすむ齢や竹落葉
朝曇車中赤子のぐづりごゑ
白雲は芯といふ無し青胡桃
白粉花や犬洗はれて貧相に
座頭虫こども抓んでしまひけり
団子虫筬虫放川鋏虫
六月や空も本来水に満つ
新生即更新泉のこゑやこゑ
流燈会流しながらにあとを追ふ
きのふけふあすかな松葉牡丹かな
 

「あげませう」2023年5月号掲載     横澤放川

洞窟出てヒトは何した猫の恋
  福島に春幾たび
白蠟のやうに三月不幸かな
  かつて波崎にて出会ひし
寝釈迦(ののさん)に花あげませう子供たち
永き日の母来たり祖母帰つたり
永き日の気ぜはしきもの雄鶏は
もんしろもこどもも止まること知らず
ひらひらと世にこどもかな蝶々かな
春の蠅刹那ほとけの彩させる
うらうらと痛点溶けてゆくやうな
永き日の風に忘られ風見鶏
 

 

「きのふより」2023年4月号掲載   横澤放川

もの湯掻きゐる早春のかたときよ

けふは春寒しとなさず家を出づ

手をかざすさへまぶしさよ猫柳

きのふよりけふがかがやか蝶生まる

初蝶のどこへ逸るるも日にまみれ

人寰のあれば隅あり沈丁花

犬ふぐりひとつひとつが己が位置

うらうらと軒は古るとも雀口

白梅や飴の中から薄荷の香

白梅や胎児はおのれ握るのみ

「風紋も」 2023年3月号掲載    横澤放川

わかしほに乗り春光へ春潮へ

上総なり一宮なり初燕

  上総は昔日ちちははの流離の地にして

なにかなし総のほとりの春草が

この土手も土筆の頭焦げる頃

われわれに信ずる明日か土筆摘む

つくし摘む指に思ひ出うすみどり

自転車を下りて持つまま春の海

  旧作〈父恋し氷の旗の浪千鳥〉は当地を追懐せし坦懐にて

風紋も春愁もそれ繰り返し 

一家族ほどの足迹春渚

補陀落はやはりありさう春の海

「ほぐすより」2023年2月号掲載   横澤放川

 

青空と信じ青空寒土用

  千空よ

ぬばたまの夢の又夢寒蜆

鷹揚りゆくとき我も身をる

風呂吹の眠るごとくに透きとほる

ひりひりと天は青磨ぎ寒中梅

冬晴へ歩むはむしろかるがに

春隣綱に甘えて船軋る

小膝より人は衰ふ鳥雲に

ほぐすより古縄は切る垣手入

きつといい母さん春の干蒲団

「春子なり」2023年1月号掲載   横澤放川

 

しつとりとみどり子睡る笹粽

笹粽ちちはは遠く育ちけり

畳屋は香りの仕事夏立ちぬ

清和なり薬罐に水を注ぐさへ

我もまたに出たり夏雲雀

堤塘を若き父母初南風

麦秋やいのちに噎せて少年期

農夫地に大工足場に夏燕

かたばみの花年々の神学生

春子なり豊干の拾ひたる子なり

「歩まんず」令和2年1月号(創刊号)掲載  横澤放川

 

太箸が用意のものの中に見ゆ

復興といひては忘れ松立ちぬ

一望の冬田肝胆ぬくとまる

朝北風へいつそ翻き出でんかな 

仁義礼智忠信孝悌龍の玉 

遊び伽とよ龍の玉草帚 

少年期より赤かつし消防車 

寒晴や雀のこゑのしたたかに 

寒晴やぴりりぴりりと烏の目 

寒晴や文字を忘れて歩まんず 

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