​「森の座」代表

今月の​横澤 放川 (よこざわ ほうせん)

混みあはず「森の座」令和2年9月号掲載

 

ヨルダンと聞こえしと思ふ秋のこゑ 

筑紫恋し筑紫とわれは母恋し 

なにかあけわたしたる空小鳥来る 

木が感じ草は騒(ぞめ)きに九月尽 

重なりてゐて混みあはず曼珠沙華 

野菊道民子の民の字が哀れ 

かかれるもかけしも淋し秋の蜘蛛 

だれだらう微笑んでゐる野菊道 

一本のここに飛火の曼珠沙華 

山風も差矢さながら秋燕 

重からぬ 「森の座」令和2年9月号掲載

 

秋さぶと鶉の卵食べにけり 

秋の藪すずめ走れる影と見ゆ 

遠い子もその子の親も月夜なり 

鰯雲西の方へと低しとも 

なぜありしもののなうなる曼珠沙華 

鶏頭の庭へ子を負ひ出で来たる 

満月のもう重からぬ高さかな 

秋の水赤子映さば奪(と)られさう 

箒草さはればやはりこはきもの 

白露も睫毛も光弾くもの 

踊るなり 「森の座」令和2年8月号掲載 

 

くろがねの五徳を磨く秋風裡 

同席の割箸を割る秋の音 

高秋の鯊の如きが旨さかな 

  兵庫津真光寺 

数珠の紐切れし如くに銀杏は 

虫が鳴くやうに我等も六字かな 

石榴実に念仏つひに踊るなり 

実石榴や厚子超二のごと踊る 

秋燕に空は愈々高まさる 

秋晴や干して鰑のぺつたんこ 

曼珠沙華さへも生きてはひと屯 

颯々と  「森の座」令和2年7月号掲載 

 

秋燕の一瞬の腋深しとも 

群青は息(やす)めるあかし秋の海 

みみず鳴く螻蛄鳴くやはりみみず鳴く 

鶏頭の肢したたかに土踏まへ 

経行(きんひん)の一足一足白露なり 

さびしさに走り出す子よ帰燕時 

秋燕下土に執して土を掘る 

水色を秋の揚羽はさまよはせ 

納豆をこをろこをろに颱風裡 

初鵙や遠を草田男颯々と

 

 

さしくぐむ  「森の座」令和2年6月号掲載 

 

そぞろ風盆近きゆゑ真菰ゆゑ 

深泉のぞきて乙女あとしざり 

藻の花やまこと流るる時と水 

青年の肘に灼け砂憑かせ来る 

松葉牡丹まだ子育ての家と見ゆ 

はや秋気箸一膳をすすぐ水 

朝顔や万神には咲(わら)ふ神 

解いてゐる踊櫓のあらはさよ 

送り火にさしくぐむ母突つ立つ子 

山鳩かそれともさびし鳩吹くか 

 

ありがたう  「森の座」令和2年5月号掲載

 

日の盛雲のさかりの軒雀 

晩涼の紙の蛙が跳びにけり 

ちやんとありがたうしなさい門木槿 

一枚の夜店の水の屑金魚 

掬はれて幸か遁げてか屑金魚 

屑金魚腹しろじろと掬はれぬ 

泳ぐ人此彼の距てとなりにけり 

水底をすべる恍惚蝸牛 

蝸牛は動くものまた眠るもの 

そこら中金魚如雨露が濡らすかな

のびきつて 「森の座」令和2年4月号掲載

 

夕立のあと人間(じんかん)を歩くなり 

色めけり蛇の触れたる草として 

衣蟬(みんみん)の鳴けば来るわが誕生日 

さつき母が通らなんだか夕顔棚 

祭壇は言の葉の場(には)アマリリス 

   今宮あぶり餅一文字屋 

竹簾とほり逸(はや)れる風のあり 

泥田はも楽しさ蛭ののびきつて 

もうすでに前後失せたる夕立中 

鱶が鰓そよがすやうな涼夜なり 

かりそめの紙に金魚の掬はるる 

馬光る  「森の座」令和2年3月号掲載

 

朝涼や濡身さながら馬光る 

朝曇触れて熱くも馬の肌 

涼しさの白馬もとより白総尾 

むしろ涼し馬糞の匂ひ乗する風 

人よりも馬体ひそけさ日の盛 

炎昼や騸馬立居を動かさず 

幼女もつ線香花火のこより屑 

門先に線香花火といふあえか 

この奥に慥か沙羅咲く家のある 

妣がわれ慈しむたび虹の立つ 

しゆぼしゆぼと 「森の座」令和2年2月号掲載

 

己が身はそんなに炒るな油蝉

すつくりと夏毛正しく日本犬 

夕焼は過去の方へと衰ふる 

しじみ蝶発ちて白詰草ゆるぐ 

そばの実は風とむすべるものらしき

しゆぼしゆぼと水ヨーヨーや宵祭

そのあとが厭なものかな蠅叩 

囲の蜘蛛がそれとも国が逆しまに 

大仏の灼かれて坐(おは)す掻氷 

大仏の背に頓生の油蝉 

歩まんず 「森の座」令和2年1月号掲載

 

太箸が用意のものの中に見ゆ

復興といひては忘れ松立ちぬ

一望の冬田肝胆ぬくとまる

朝北風へいつそ翻き出でんかな 

仁義礼智忠信孝悌龍の玉 

遊び伽とよ龍の玉草帚 

少年期より赤かつし消防車 

寒晴や雀のこゑのしたたかに 

寒晴やぴりりぴりりと烏の目 

寒晴や文字を忘れて歩まんず 

 

ひらかんか 「森の座」令和元年12月号掲載

  

泉辺に来て人間にならんとす 

父のこゑはた母のこゑ泉のこゑ 

永遠と時とのあはひ泉湧く 

睡蓮の咲く刻天も息つめて 

もくれんは仏指の如き実や零る

夏鷹の振り捨て発ちに一姿去る 

蓮巻葉世にひらかんか沈まんか 

あらためて歯磨き白し朝涼し 

ここも水ここも水水蟻迷ふ 

投票を済ましゆふすず雀かな

首翹げて 「森の座」令和元年11月号掲載

 

凄きまで入るや涼風西山荘 

青歯朶のひやひや戦ぐ御胞衣塚 

また一枚水に乗らなの竹落葉 

立札の下乗二文字ほととぎす 

杜鵑鳴くや清々西山荘 

ふたたびの杜鵑待つ首翹(あ)げて 

呍像の腹くわつと割れ涼しいぞ 

どんみりと霞ケ浦や蓮浮葉 

いつまでを残す瑠璃色蜥蜴の屍 

生涯のいつまた逢へる慈悲心鳥 

 

齢かな 「森の座」令和元年10月号掲載

 

雲は往来一切自由田草取

田草取雲を拾ふといふやうな 

田草取ひとの膕かがやけり 

腰一丁勁きものかな田草取 

朝曇雀も先づはありくより

ものうさの少年螻蛄を泳がしむ 

こゑはまづ母を呼ぶより雀の子

蝙蝠を闇が我等を灯が待てり 

塩蜻蛉ピリピリ人を煩さがる

白玉のひかりまぶしき齢かな 

うすみどり 「森の座」令和元年9月号掲載

 

夏ひばり自由落下も楽しいか 

  酔裡頓言 

豌豆の家は掠らるる身は剝がる

白浴衣生きて愛(は)しきは雀斑(かすも)さへ 

夕涼に湯あがりの肌いやさやに 

動かせば動く錆戸や青嵐 

施餓鬼棚小さき人かも棲み給ふ 

ままごとに似て水の実のあはれかな 

鬼子母神朝顔市をよろこべり

すずしさの今朝は八一の鹿鳴集 

走馬燈過ぎてむかしはうすみどり 

 

 

 

真上より 「森の座」令和元年8月号掲載

 

 

睡蓮に来るも此の世の音ばかり

打水をなによりや砂利よろこべる

十薬直(ぢき)指(し)天の笞(しもと)は真上(まかみ)より

水車涼々音も潑々水馬力(みずばりき) 

光より遁ぐる人間黴の花 

我等にも雀にも来る晩涼は 

晩涼や一箇くるりと茹玉子 

湯あがりの清さに寄るや白暖簾 

虹立ちてなにともなくな胸さわぎ 

虹さびし虹うれしけふ虹悲し 

ひつじ刻 「森の座」令和元年7月号掲載

 

さわさわと孔雀奮へり荒南風 

畳屋は畳刺しをり清夏なり 

頷きて休む力車や祭前 

少女にも結ぶ靴紐立翅蝶 

夏点前菓子に敷くには惜しき紙 

  夏泊 

どの顔も浜昼顔は海に向く 

みちのくの蟻や胸辺へ高あがり

今生は光欲しさよ睡蓮も 

浜で鳴き仔雀ももう浜雀 

赤子泣き未草にはひつじ刻 

ゆめかさご 「森の座」令和元年6月号掲載 

 

夜の雲白くやすらひ聖母月 

初夏や刈り込みすぎて首さびし 

マリア月花屋は花と水に満ち 

信濃境小学校の花胡桃 

青年は無印の旗夏つばめ 

牛がをり牛の蠅をりしたたかに 

みどりの夜赤子ながらに深寝息 

青梅や少年すでに指の節 

母のこゑ卯波のこゑはあざかへし 

水揚のそいゆめかさご初南風 

喉つづみ 「森の座」令和元年5月号掲載 

 

山の子に鯉より泳ぐ鯉幟 

ぼうたんに韓くれなゐの神ぞ憑く

夏若し尋(と)めんへむしろ友の来る 

初夏のうすさみしさとほどの雨 

花胡桃ものの兆しのひそかさに 

白雲が来るだけでいい花胡桃 

濡れて行くかへつて潔し新樹雨 

麦の秋待たされて犬喉つづみ 

  十二使徒よ 

鳩羊星魚十字架麦の秋 

船は水脈花と賑はし青葉潮 

とんちんかんちん  「森の座」平成31年4月号掲載 

 

それ春日没るな没るなと湯玉沸く

初花や後生々々の後生車 

鶏が場(には)木(き)にのぼり神の春 

花の塵指を痛めて字の乱る

空耳のとんちんかんちん目借時 

ふれもせで赤く散るなりさくら蕊

 八重桜瞼重りのやうにかな 

八十八夜魚を捌くと真水打つ 

八十八夜鶉の卵動きさう 

花ゑんど農夫無聊の外歩き 

帰りなん 「森の座」平成31年3月号掲載

  

 

春の水雲乗り来たるさざめきに

戻り寒忘れて寝れば明日になる

おすましの色めざましき二ン月菜 

身をよぢり踊る涅槃の花鰹 

鉛筆はくるくる削る初燕 

燕の尾日本一の働く尾 

ゆふつばめ人のこころのさしもつれ 

帰りなん夕恋ひ鳥の春の鵯 

春も馬流し走りとなるやうな

 永日の香をこぼるる白き灰 

千五百たび 「森の座」平成31年2月号掲載 

草木瓜の朱やいのちの第一色 

石にさへ矢は立つ況して葦の角 

とりわけや白魚盛ると白き皿 

苜蓿ほどの低さも風の訪ふ 

さびしさへ道を逸るれば花茨 

日永さのながくしたとて亀の首 

不忍はすこし空あるつばくらめ 

ひとびとや上野の春の小永さに 

その水へ燕五百(いほ)たび千五百(ちいほ)たび 

春の松肩にちからは要らぬかな 

かけまくも 「森の座」平成31年1月号掲載 

昔より若水迎へ星まみれ 

若井汲む女人の元へ男汲む 

若水と呼ばれてふくらふくら沸く 

かけまくもただに不二やま大旦 

応応と松籟わたる破魔矢かな 

めでたくもなにや咥へて初雀 

いやさらに大地病んめる鏡餅 

  国の春 

才蔵も太夫もとつとと逃げまして 

一白のかはひらこかな凍つるかな 

冬ざれや錣(しころ)さながら軍鶏一羽 

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