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​「森の座」
今月の推薦句(「花樹の道」より)

1月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

茶柱のあやふき姿勢敬老日         平井 靜代
住み変る世も遠からじ盂蘭盆会       西野智壽子
舌切つて秋の風鈴眠らせる         宮坂 恵子
ひらがなの顔にネクタイ案山子かな     村田  惠
掌に乗せて菩薩のごとし蜜りんご      成田 圭子
遺影との朝茶一杯断腸花          渡部 紀美
過去は過去燃えて冷たし曼珠沙華      木下 早苗
うろこ雲ひとつ下さい誕生日        川瀬かずこ
夕立やシーツ助けに駆け上がる       木村由紀子
天高し軽油ごくごくコンバイン       西村 綾子
高高と積まれ新米お通りだ         大熊 小葉
金柑たわわ陽を奪ひ合ひ敬老日       竹馬 安芸
蛇の衣鎌で手を切る迂闊者         榊原 淑友
嬰児のふはりと重き秋の昼         川嶋 由美
漆黒の闇ほどけゆく月今宵         林  一酔

 

 

 

野葡萄これペルシヤの姫のイヤリング    柿木 英子
歩かねば八十路の焦り青みかん       飾 ゆみ子
幾たびの憂ひ巡れる絵燈籠         髙𣘺 敏夫
飴色の陽をふんだんに秋の蝶        松本千代美
乳飲み子の豊かな足裏ひつじ雲       家登みろく
唐鴉方言今や嗤はれず           小林 和子
退院の一斉メール草の花          安部眞希子
裏畑に鳩の鳴き継ぐ栗拾ひ         多田 敏弘
榛名富士彩るものに檀の実         岩井 秋津
秋高し牛の大尿とめどなし         北杜  駿
亡き母に会ひたくなりぬ豆打餅(ずんだもち)吉田 遼吉
四十年(よそとせ)の遅参しました秋の雲  平尾 潮音
またひとり曽孫授かり小鳥来る       山本 綾子
アイロンのするするすべる秋日和      小原けい子
天気予報雨なりいそぎ大根蒔く       笠原十九司
 

11月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

 

観天望気さも大漁の鰯船          津川好日子

今日の日の苧殻三本清らなり        土濃塚まり

旱星人生縛る自白とは           加藤八寿子

夫米寿汗の莫大小脱ぎ捨てて        齋藤美茄子

浸す手を逸るる浮力の茄子かな       藤井 安廣

御旅所の蒔砂浴びる雀どち         岩井 秋津

落蝉を蹴つてその死に安堵して       木村 保夫

髭動き泥動きだす梅雨鯰          西村 綾子

梅干しを噛みて砕ける恋心         小穴 喜周

秋近し薄き膝掛けかたはらに        小野 昌子

ひぐらしや手抜料理はカレーです      片倉 フミ

原爆忌未来永劫只一国           佐々木章子

炎熱忌明日広島忌夜は佞武多        山内ひろ子

八方宜し八十の素手桃をむく        末次 菖夫

眉太く描く朝からの蟬時雨         篠原 久子

この際に捨つるもの捨て盆用意       佐々木龍雄

とつとつと老の日傘の前のめり       増田 義子

炎昼やだあるまさんと転がらう       上田 恵子

夏休ご馳走にほふ婆ちやんち        石原 静世

原爆忌あなた折鶴折れますか        小林 迪子

鳴き出しは火打石めく油蝉         家登みろく

茗荷の子抜く濡れ土の冷たさよ       太田 量子

ぞんざいに茶椀を洗ふ大暑かな       石田 福子

のうぜんの揺れて地球のさわがしき     平山千穂子

割りがたき筆の勢ひ夏のれん        林  訓子

鰯雲主の食されし魚はなに         安部眞希子

撞木鮫知らぬ知らぬで押し通す       角田 貴彗

尺取の登り疲れて反り返る         木下 早苗

青田端に水浴び雀邪魔せぬよ        藤  大和

風鈴やまた一つ了ふ誕生日         伊藤 亜紀

10月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

誰がための甲種合格梅雨の星        森  巫女

思ひ出は次々色色薔薇の坂         小泉 光子

「浜背負」は女の仕事夏の雲        曽根 聖子

暮六つのナイター中継肴とす        藤井 安廣

鮎解禁釣人川を揺るがさず         権藤 順子

その重石五キロを乗せて梅酢かな      除村 仁美

捩花がご近所さんに飛び火する       太田 量子

白南風を少年は行くふり向かず       平尾 潮音

風呂場にもひらがな表や夕郭公       大熊 小葉

母が家の菜箸白し涼を盛る         藤田智恵子

混沌の煌めく線香花火かな         塚本千代子

遺伝子の螺旋くるりと落し文        加藤八寿子

何か得て何か脱ぎ捨つ茅の輪かな      阿部 明美

からうじて地蔵菩薩や草いきれ       糸山 栄子

茅の輪くぐり少しく覚ゆ身の軽さ      大島 良子

新盆や為すこともなく灰篩ふ        山川 漠千

植ゑられて早苗今にも溺れさう       来栖 章子

原発の裾より海霧の立ちのぼる       間宮  操

七七日終へて訣れや四葩咲く        伊藤 亜紀

デモへ行く未来への汗かきに行く      家登みろく

羽蟻の夜五右衛門風呂の祖父の家      木村 保夫

家居こそ良きものとせん夏料理       大畑 隆子

夜濯ぎや独語激しき洗濯機         杉浦ふみ彦

どの星にあなたすまふや星祭        米井  妙

コロッケが五円の頃の大夕焼        藤  大和

額づきて仰ぎて十字架花石榴        安部眞希子

胡麻生姜葱鰹節心太            村田  惠

ふくれゆくビニールプール子は父に     佐々木あや子

くらがりに悶への如く忘れ角        髙𣘺 敏夫

憂き日あり楽しき日あり下がり蜘蛛     小林 迪子

9月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

 

青葉風母は旅立つ孵化のごと        伊藤 亜紀

白寿逝く五色卯木の咲く頃を        間宮  操

新札を常備せし亡母花石榴         安部眞希子

少年や三日見ぬ間の立葵          津川好日子

ももとせを忘るるひとの金魚鉢       中村なづな

新聞に何でもくるむ昭和の日        村田  惠

文ひらくやうに甘藍ほぐしけり       渡辺多佳子

躍りでし黒潮の青初鰹           田辺ゆかり

熱帯魚泡の柱に眠る真夜          古谷 誠司

蜑の畑花じやがたらの盛りかな       田中 玲子

雨蛙じやうずごかしの御節介        森  巫女

サイダーの囁きは消え恋心         増田 尚子

夫と観る八十八夜の小津映画        野本 昌代

馬鈴薯の花のかんざし娘は五歳       柳沢 治幸

籾浸す一気に目覚め万の泡         西村 綾子

田へ向ふ堰の清流風薫る          川村 耕泉

師の句碑に淡き埃や新樹光         小穴 喜周

老鶯のケキョと躓く我も又         西野智壽子

敗因を一人噛み締め干すビール       中島八重子

滾々と噴井しんしんと悼む         平尾 潮音

緑さす窓からカレーパンあげる       石田 福子

鼻環をば打たれ囮の鮎猛る         林  一酔

明け易し瀬戸の潮目に力みあり       森岡 青潤

雀の子埋(い)けたるあたり二夜草           宮坂 恵子

蠅虎家訓に糸を吐かぬこと         林  訓子

尾羽かけて風と力闘夏燕          北杜  駿

経を聞き徳を蓄へ梅太る          松尾 美咲

上の子を真似て叱られえごの花       山内ひろ子

薫風や人より固き馬の耳          光井加代子

植田の行間白鷺の句点           青木 宣子

8月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

 

追はうにも黄蝶の軌跡定まらず       塚本千代子

空缶のドラムロールや大南風        渡辺 厚子

霾る日戦死の伯父の墓仕舞ふ        木村 保夫

茅花風ポニーも駿馬に浜競馬        間宮  操

揚雲雀十字を傾げ道しるべ         岸本 千絵

陋習は老の元気よ栗の花          小林 玲子

草を刈る体のどこか歪みをり        光井加代子

竹秋のくるくる古葉生きてゐる       谷  就応

旬の物食し憲法記念の日          濵名 カヨ

藤の花風甘くなり重くなり         清水 雪江

こどもの日今なら解ける方程式       上田 恵子

野薊のケサランパサラン飛んで朝      木村由紀子

指しやぶり止まぬ上の子桜の実       福本美智子

混沌の世の朝ざくら夕ざくら        大木あき子

谿風を蹴り上げ千の鯉のぼり        田辺ゆかり

影絵めく靄の奥より蜆舟          田端 千鼓

美しき他力本願風車            家登みろく

雛寿司三層友の話尽きぬ          権藤 順子

透明な壁押すピエロ養花天         中村 百仙

アイロンの蒸気もうもう昭和の日      松尾 美咲

憲法記念日九条の揺れ収まらず       井川 水衛

大末黒手持無沙汰の引き返す        大村 生雲

反抗期傍らにおき柏餅           増田  涼

子供の日母は不動に母なりし        土濃塚まり

たまご屋へげんげの畦を近回り       木村 郁代

花の昼一先づ孫の成績表          森  巫女

柱時計ぎりり巻き上ぐ麦嵐         徳田 文三

蟻の列婆の列なり生き急ぐ         中村なづな

待たされつ見えし良縁桜の実        末次 菖夫

争ひのなきが青空鯉のぼり         北杜  駿

7月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

ヒロシマへ還れましたか花菜風       石田 福子

佐和山に落ちては燃ゆる藪椿        松田 範子

麗日や吾子泣く声に乳溢れ         橋原 涼香

蜷の道教はりこの世楽しけれ        太田 量子

なにげなく沈丁のありみづはのめ      中村なづな

鶺鴒の歩き達者よ春の暮          佐久間健治

初音聴く命拾ひし夫と聴く         伊藤 亜紀

喪ごころの底ひへまろき朧月        平尾 潮音

金平糖の角はまろやか囀れり        成田 圭子

出刃の背に貼りつく鱗桜まじ        中村 百仙

あふれさうな舟型手水鳥の恋        篠原 久子

靴下を脱ぎてあたたか五指楽し       小原けい子

あはあはと風に押さるる花筏        小野 昌子

代々の戒名に「雲」春深し         齋藤 一子

紅枝垂師の句碑に告ぐ杏子の訃       山内ひろ子

掃くべきか風に任すか桜蘂         新井みほ子

花筵余生それぞれ賑はへり         大石 幸子

上り鮎己がひかりを反転す         髙𣘺 敏夫

巡礼の三日遅れや花は葉に         広瀬 茂子

独り居の宵賑やかに浅蜊汁         大畑 隆子

蝶となり母の胸へと兵還れ         木村 保夫

千本の花千体の仏かな           津川好日子

酒好きのたんぽぽだけはわかる人      齋藤バナナ

花筏身投げのごとく堰を落つ        藤井 安廣

この町の風に馴染みて風車         家登みろく

ばあちやんのやさしき言葉草の餅      田村 幸子

幣辛夷土まで錆びし鉄工所         大村 生雲

オカリナは地の声宙に揚雲雀        杉浦ふみ彦

とりどりのヒジャーブ眩し花の下      松尾 美咲

花は葉にいづれ告解の時あらむ       五十 青史

6月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

 

葦を焼く焔壁なし立ち上がる        内田 和子

もののみなとほくにありて春ともし     渡辺多佳子

田螺這ふ夜空に星座描くやうに       土濃塚まり

菜の花に安房も上総も無かりけり      吉田 遼吉

手の甲に紙の重さの種袋          曽我 欣行

明るさよどこへ立ちても梅の空       間宮  操

日に三度つましく膳や梅真白        宮本紀久代

春の渓転がるやうにカヌー行く       栗原 実季

かの世へは行かぬと夫や風光る       伊藤 亜紀

白葱その長さは畝の高さなり        田村 幸子

氷海に群青の澪光満つ           山川 漠千

常陸野の朝靄はれて初ひばり        安達とよ子

開聞岳春愁吾は戦中派           大石 幸子

百千鳥記念樹のみの廃校址         北山 恭子

雛納薄様透ける寂し面           山本 綾子

春の草踏めばはにかむ土不踏        友澤 道滋

寒卵真中明るく躍り出づ          髙𣘺 敏夫

鶴髪を高く結ひ上げ初扇          橋原 涼香

十三蜆生れし潟の砂を吐く         一戸  鈴

啓蟄や残り時間をふと思ふ         小原けい子

行きずりのかもめ食堂浅蜊汁        木村  茜

鳥風やいつ来ると問ふ母の声        加藤八寿子

三宝に乗り畏まる年の豆          森  巫女

目を覚ませ大地起きよと野火放つ      森岡 青潤

大福につき出る暖かし           上本 白水

さらさらと春流れ出す白馬の尾       北杜  駿

木の瘤を割りて薪に辛夷咲く        小西 弘子

頂へ競ふ少年卒業期            森棟 正美

ブランコをベンチ代はりに母とゐる     太田 量子

学び且つ游べと園の梅香る         小泉 光子

5月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

大仏の中の地獄絵年新た          角田 貴彗
一搗きに一搗きに香や柚子の餅       橋原 涼香
『悲の器』海渉りゆく涅槃西風       中村なづな
鬼やらひ古井の蓋のちと擡ぐ        宮坂 恵子
潤すは三草二木春の雨           津川好日子
なんといふ大寒の日の道乾く        川村 耕泉
馬の耳ひらりと立てり早春譜        多田 敏弘
えんぶりの街に来てゐる朳馬鹿       髙田美津子
あどけなき幼なの嘘や雪うさぎ       木村 保夫
浜なれば犬も海見る冬温し         浅野フク子
泣き顔のやうやく笑まふ猫柳        齋藤 一子
つまりつつ車掌の英語春を乗せ       森岡 青潤
立春や見事に剥けてゆで卵         渡辺多佳子
旧正の家の豆餅貰ひ来る          林  訓子
風見鶏ひたと向き替へ四温晴        古谷 誠司
をさな子のきらきら遊ぶ春来たる      小林 和子
愛の日の板チョコ昭和の音たてて      木村  茜
赤提灯吊つて裸木喜ばす          家登みろく
おでん鍋黒はんぺんは母の顔        榊原 淑友
深酒の夫へたつぷり蜆汁          小原けい子
残雪はあたかも祠秘するごと        小林 玲子
一片から復元の土器冬茜          大村 生雲
鳰潜る水輪の消えるまで潜る        伊藤 亜紀
妻よりも今朝は早起き寒卵         北村ゆうじ
てのひらに風花の旅果てにけり       杉本喜和子
高みにて相寄るキリン春隣         板谷 文木
新樹光あふれてをりし出養生        髙野よし子
鱈豆腐うからのこゑと遠くゐて       田中 玲子
一つ一つ病持ち寄り日向ぼこ        森田千枝子
「やつとかめ」友どんど火の向かふ側    森  巫女
 

 

 

 

4月の推薦句(花樹の道より) 横澤放川

 

冬銀河その一つより吾子の名を       橋原 涼香

ふれられもふれもせで消ぬ風花も      宮坂 恵子

海の憤怒山の沈黙雪しまく         渡辺多佳子

年の瀬来てんやわんやの在りしころ     谷  就応

熊野より筆売りの来る師走かな       光井加代子

初曽我や並みてめでたき割台詞       小西 弘子

風花の地には届かぬひとりごと       田辺ゆかり

飾り縄腕におぼえの左縒り         中村 百仙

子ら去りて野の色入るる七日粥       布施 和子

一人居の表札拭ふ年の果          森棟 正美

初日記洒々落々としるしけり        新井みほ子

冬麗や五体投地で祈る人          板谷 文木

極太の氷柱鎧ひてダンプ行く        小林 玲子

缶蹴りの缶の喜ぶ空つ風          杉浦ふみ彦

ぐいぐいと空を掴んで凧揚がる       大島公美子

吹雪止み星は神話を語り出す        成田 圭子

子規居士の三倍生きむ赤海鼠        徳田 文三

罅割れは神の占ひ鏡餅           林  一酔

天守閣よりも高みへ凧揚がる        松尾 美咲

数へ日の牛乳うんと飲みにけり       山本  剛

二の字二の字のキャタピラ轍雪上車     武田 詩子

七種の一つもとむる外出なり        田中 玲子

女正月残りものにてしもつかれ       津川好日子

頓服の喉落ち悪しき女正月         片倉 フミ

爆づる音に達磨転げるどんど焼       渡辺 紀美

役者絵の寄り目どこ見る年新た      佐々木あや子

大旦水平線に旭の王冠           増田 尚子

初日の出ふたりで何回見ただらう      五十 青史

寒林や古墨のごとき父の声         藤原 昌仁

根に零す神酒樹木医の初仕事        末次 菖夫

3月の推句(花樹の道より) 横澤放川 

 

出稼ぎの父巨いなる朝日背に        大川 恵子

走り根の阿弥陀くじめく年の暮       小野 昌子

餌を獲りし鷹のまなこに射竦めらる     大木 黄秀

マフラーはきつと少女の落し物       栗原 実季

三時には虎屋の羊羹松手入         大島 良子

セーターかマフラーかまだ端切ほど     家登みろく

モンスター討伐あとのしぐれ虹       豊増 美晴

冬日没る遠ちの大島燃えつきる       小林 迪子

宿坊の薄き蒲団や南無大師         林  一酔

図書館に眠る言の葉冬北斗         古谷 誠司

山茶花散れり一円の磁場の中        谷  就応

家々の家事の最中を朝の火事        藤井 安廣

漆掻きの疵をあらはに枯木山        田端 千鼓

龍太亡き後も冬日に立つ箒         木村  茜

旧道の布団屋赤いちやんちやんこ      小西 弘子

珈琲館二階は冬の恋だまり         上本 白水

手に木の実ひねり思案の定まりぬ       柴﨑 泚子

豌豆蒔き安けき家の佛達          大石 幸子

一年(ひととせ)のしがらみを解き古暦     成田 圭子

聴き分くる秒針の音と小夜時雨       曽根 聖子

わたしこそ正真正銘返り花         小林 和子

教会より溢るる美声霜の朝         森岡 青潤

冬草のあかるきところ昆(むし)の塚     久保下和凡

話したきことありて剥く林檎かな      家登みろく

十二月夫よ私は忙しい           得原 輝美

豆腐屋に乳色の湯気寒日和         橋原 涼香

あたたかきわたしは吾子の敷布団      木村由紀子

花柊瞬きの間に零れをり          廣田 苧惠

曳山を待つと熱燗くるみそば        津川好日子

結局は笑みかへす母冬紅葉         大畑 隆子

2月の推句(花樹の道より) 横澤放川 

 

御嶽の音無きけむり牧閉ざす        篠田  暘

砂浜が直会どころ在祭           間宮  操

どぶろくの薬缶で注がる鉢で受く      林  訓子

入川に秋潮匂ふ浜子うた          岸本 千絵

熟柿啜ればやたら涙の出る夕べ       五十 青史

その窓はひらきませんよ小鳥来る      石田 福子

栴檀草泥棒草となりて冬          宮坂 恵子

まほらなる山河のありて小鳥来ぬ      岩熊 渓歩

残さずに食べて勤労感謝の日        坂場 俊仁

陽をつれて遠ちへ帰る子冬隣        川村 耕泉

潮騒の届く花野に来て居りぬ        北山 恭子

紅深き熟柿は空の神たちへ         榊原 淑友

雪吊の少し弾ませ仕上組む         板鼻 弘子

大いなる花野の径を迷ひたし        大山 洋子

銀杏落葉蹴る子風の子光の子        木村せい子

しんしんと音する如く寒夜更く       吉田 遼吉

熟柿落つるしづかな刻を二人老ゆ      大島 良子

若き船頭掬ふ水音身に入むよ        権藤 順子

夕茜柿の我が家に戻りけり         大木 黄秀

老いゆくを驚きの日々芭蕉枯る       松本三美子

時雨るるやあられこぼしの石畳       津川好日子

手から手へ頸摘まれて枯蟷螂        古谷 誠司

星空に干大根を預けけり          大川 恵子

ごつごつと兜太の庭の榠樝落つ       木村 保夫

母の手を包むクリーム冬に入る       木村 郁代

群れ立ちて冬の雀となりゆけり       小西 弘子

節電の中の一灯一葉忌           木村  茜

あけびの実ひとつのせたる置手紙      葛西 幸子

木の葉髪母には見せぬ母の櫛        土濃塚まり

本堂のおのへこみ小鳥くる         柿木 英子

1月の推薦句 横澤放川

無花果を割りし匂ひに母います       木村  茜

風の秋桜さうかもうゐないのか       宮坂 恵子

秋刀魚焼く今日といふ日をけぶらせて    大島 良子

特大の母のおはぎや今日の月        成田 圭子

耳遠のちんぷんかんの露まろぶ       田中 玲子

さやうなら三日坊主よ鰯雲         光井加代子

腰かがめ案山子は翁になりきつて      杉本喜和子

小鳥来る失語の父の眼の先に        木村 保夫

夜すがらを間合ひ狂はず鉦叩        田辺ゆかり

千草花手向けて風に妣の声         間宮  操

水澄むや喉仏なき鳥の首          木村 郁代

浅草に戻る客足秋暑し           家登みろく

胎動や金木犀の香るたび          橋原 涼香

足らざるを足れりとなすや十三夜      津川好日子

汁の実に虚抜き大根妣と居る        中村なづな

ひとときの露の露草仏へと         木村せい子

蓑虫へ指一本の大地震           太田 量子

秋嶺の紺各務野を囲むべく         森  巫女

秋燕や物置にある少年期          渡辺多佳子

バス揺れてコスモス揺れて海見えて     松本三美子

ぱきと割れ林檎はいさぎよき果実      小原けい子

蛇笏忌の木犀の金こぼれ初む        安達とよ子

真夜中に際立つ岩木十三夜         山内ひろ子

肌寒や今夜は饂飩打つつもり        石原 静世

胡桃割る迷路は全て行き止り        村田  惠

鷹揚をまつたうしたり破芭蕉        古谷 誠司

盆僧は女人大学三回生           西野智壽子

ゑのこ草ひそひそと行く女学生       浅野フク子

折れさうで折れざる風の猫じやらし     谷  就応

中年の次は熟年葉鶏頭           宮本紀久代

 

12月の推薦句 横澤放川

 

空蝉や旧姓といふ我が破片         家登みろく

鳥渡る逆さ重ねの植木鉢          篠原 久子

寒蝉の発条切れてぢるぢるぢ        林  訓子

草の香の立ち上がる牧天高し        橋原 涼香

ちょんと向き変へる雀や秋はじめ      小西 弘子

月山をふた分けざまに稲つるび       武田 詩子

生身魂聞こえぬ振りの板に付く       篠田  暘

物干しの余熱とりこむ秋彼岸        中村 百仙

秋夕焼夫に寄り添ふこと多く        成田 圭子

悠然来て去る大紫をいとほしむ       山内 香月

ころころと何を包むか花芙蓉        白石 綾子

荒家のまはりに花野山羊笑ふ        松本千代美

仕事場を見せて畳屋釣忍          濵名 カヨ

皆帰り皆の代りか虫の声          柳田 富枝

後の月仰ぎみる背を抱かれて        松本三美子

大西瓜喰へばあの日の父の声        近藤 育夫

叱るものゐなくて木槿咲いてをり      中村なづな

あさがほの紫紺の底ひ常寂光        宮坂 恵子

五波六波七波と続き月一つ         藤田智恵子

付けておくだけの家計簿灸花        光井加代子

無花果を喰らふ真面目な顔ばかり      渡辺多佳子

白薔薇の咲ききつてなほ水求む       曽根 聖子

秋茗荷田舎忘れて帰らぬ子         甲斐 酒巷

薪を割るやうにひと振り大南瓜       杉本喜和子

秋晴や大工掛矢を振り下ろす        半田多佳夫

二万歩の足揉み解す良夜かな        栗原 実季

唐櫃(からうど)の闇ぬくぬくし母の声   袴塚美佐子

深彫りの父の自筆の墓洗ふ         大熊 小葉

ががんぼの標本のごと脚伸ばし       松村 静江

侵略禍疫禍カルト禍蛇穴に         藤井 安廣

9月の推薦句 横澤放川

 

叢雲の青嶺離るるひとつあり        田端 千鼓

夏燕母ちやんだつて休みたい        松本千代美

蟻は地に人はホームに吸はれゆく      大川 恵子

母家に帰る頬白来てくれる         水上 真澄

雀どちと笑窪々々の小梅干す        間宮  操

朴散華小仏ひとつづつ残し         宮坂 恵子

栗の花馬面顔の東洋城           木下 早苗

枝豆を真青に茹で農談義          友澤 道滋

手うつしの螢の光零れゆく         見城 公子

下町の子らのはしやぎや簾越し       宮田 聖善

乳母車父も押す日よ夏燕          北杜  駿

薫風やけふ新しき薬指           橋原 涼香

ひいばばとなる日指折り風薫る       髙橋 信子

枇杷熟るる郷校跡の井戸端に        山本  剛

いつからか頼りになる子等花四葩      白石 綾子

昼寝覚め取り残されてゐたりけり      平尾 潮音

ラヂオより音零すまま三尺寝        渡辺多佳子

旅先の桑の実遠き味したり         小原けい子

弱くとも主の弟子たらん姫女苑       安部眞希子

もうこない義姉さんからの麦焦し      北山 恭子

螢をそつと亡娘(こ)の名で呼んでみる   佐々木章子

持ち主の居ぬものすぐし夏の月       上田 恵子

気を揉みつきりきり畑の草むしり      武田 詩子

軽やかに運ぶ御茶子の単帯         木村 郁代

合歓の花言葉紡げず写経せる        布施 和子

二階より泰山木の今朝に会ふ        荻野 善子

大空をわけて眩しく鯉幟          髙𣘺 敏夫

小満や土ばなれよき畑の草         安達とよ子

小津映画観しも遠き日麦の秋        岩熊 渓歩

薔薇を讃ふ綺麗なことば清き声に      大木あき子

8月の推薦句   横澤放川

 

野を焼かれ近江ゆるりと暮れにけり     松村 千鶴

植田まだ泥田の匂ひ大没日         田辺ゆかり

娘を抱き芽吹きの大地に迎へらる      佐々木章子

尾を追ひて転がる仔犬草若葉        橋原 涼香

田水張る度に土の香日向の香        武田 詩子

誰よりも青大将が驚きて          栗原 実季

春深し不発弾めく知歯を抜く        小西 弘子

なんぢやもんぢや女ばかりの車座に     間宮  操

しだかれてしだかれし麦熟るるかな     松尾 美咲

鯉幟風を待つ間も眸は開けて        榊原 淑友

菜を咲かせ歳相応の鍬の音         森岡 青潤

余白なき植字めきたる田植かな       坂場 俊仁

ETCゲートを潜る花吹雪         阿部 明美

ひたひたと舟になる部屋午睡かな      渡辺多佳子

大戦の予兆白蓮揺れ止まず         藤田智恵子

麦の穂や風の栖となりゐたる        中村 百仙

老いるとは母に似ること桜餅        松本テル子

菖蒲湯に浸かり兄弟仲直り         水田雪中花

グローブを磨く少年柿若葉         曾我 欣行

串を打つ跳ぬる姿に鮎に打つ        飛田 伸夫

たわいなきひと日が愛し夕桜        宮本紀久代

足許ね旭掻き寄せ畦を塗る         多田 敏弘

初夏の少年小さき喉ぼとけ         平尾 潮音

壊すまじ蒲公英の絮この地球        小林 和子

祭獅子軽く咬んでは下がりゆく       中村なづな

貫太郎の卓袱台返し昭和の日        谷  就応

母の日や母に教はる五目飯         佐々木龍雄

救急車の音は私よ四月馬鹿         村田  惠

懸命に泥かき回す蝌蚪の性         小穴 喜周

子どもが好き教育が好き端午の日      一村 晶代

7月の推薦句(花樹の道より)  横澤放川

 

春の季語どれも戦争止められず       山口 高子 

愛妻家と妻は思はじ万愚節         藤井 安廣 

母遠忌すべての桜捧げたし         木村  茜 

世界史は今動きつつ燕来る         登川 笑子 

鳩の目に戦争近き春の空          小西 弘子 

表札の名前増えたりクロッカス       橋原 涼香 

花影の揺れづめ地蔵笑ひづめ        石原 静世 

さへずりや埴輪三体口三つ         安達とよ子 

春の夜や人を危めぬ時代劇         篠田  暘 

孫の世へ爛漫競ふ八重桜          北浦 善一 

夜の家路鬼火のごとく花蘇芳        家登みろく 

花終り漁師は舟を「えい」と出す      栗原 実季 

つと立ちし浮子の丈ほど蘆の角       岩井 秋津 

花筏昭和の淵に溜まりけり         杉浦ふみ彦 

梅の香の漂ふ家に迎へらる         下山田 俊 

白木蓮今年は何を雲に問ふ         齋藤 勝茂 

つつついてどうだんつつじ咲きたれば    石田 福子 

妻叫ぶ光を曳きて初燕           小泉 清六 

吹雪もて遠き戦を囲みたし         角田 貴彗 

窯開く陶の生死も花の中          𠮷筋 惠治 

武田氏の興きて亡べる花筏         笠原十九司 

独り身の根性を据ゑ耕せり         髙田美津子 

花深く夕日潜みつひそみ落つ        中村なづな 

母の手を放しきりりと入学す        小泉 光子 

星降るや夜つぴて上がる霜くすべ      中村 百仙 

ねんごろに甘茶を灌ぐいくさの世      平尾 潮音 

花吹雪剛勇重忠馬背負ふ          柴﨑 泚子 

海女が言ふ栄螺の褌苦いつぺ        髙𣘺 敏夫 

囀や火の勢こそ登り窯           伊藤 亜紀 

病床の空をはみ出すつばくらめ       大山 洋子 

6月の推薦句(花樹の道より) 

 

生き過ぎを自嘲(わら)うて目刺焦しけり    五十 青史 

いさかひはさばかりの事老の春       甲斐 酒巷 

球根の据わり良き瓶ヒヤシンス       小西 弘子 

母が我が母なる至上しやぼん玉       家登みろく 

ででむしの殻の濡れゆく春の雨       吉田健一郎 

セーラー服早々届く雛の家         木村 郁代 

青と黄の国旗をかかげ鳥帰る        石田 福子 

豪雪や生ぎで居だがと友が来る       葛西 幸子 

春日や老生そそと役を脱ぐ         藤原 昌仁 

明時の夢除雪車に運ばるる         佐々木あや子 

寮の名のなべて貴し揚雲雀         家登みろく 

かうやつて戦争はおこるのだ二十二年春   山口 高子 

ぼたん雪けうらのままに消えゆけり     森  巫女 

あんぱんのやうな春子を捥ぎにけり     光井加代子 

束ぬれば白水仙の強さかな         増田 義子 

春昼や坊守酌まるる毎合掌         末次 菖夫 

下萌や犬は大地を嗅ぎたがる        小泉 光子 

砲火上がる隣のとなり蕗の薹        大川 恵子 

東山なべてなだらか草の餅         宮本紀久代 

寒夕焼夜勤の吾子とすれ違ふ        木村 保夫 

春嵐大阪場所を囃しけり          三浦 靖代 

誰が為にたぐる毛糸や夫遠し        髙橋 信子 

会釈して一緒のベンチ初燕         栗原 実季 

滾る湯の喝采に投げ寒花菜         大村 生雲 

泥舟を漕出すやうに大試験         松本千代美 

積木の城成して崩して春暖炉        大熊 小葉 

春風に絵馬が願ひを鳴らし合ふ       間宮  操 

飯蛸の淡き夢壺揚げらるる         笠原十九司 

透明な水の音あり芹を摘む        小木曽富美子 

釣釜の揺れを楽しむ齢なり         大島 良子

5月の推薦句(花樹の道より)  

 

トタン打つ風の呼び声磯竃         北杜  駿 

牧舎出る牛の背そそぐたびら雪       中村 百仙 

それぞれに割る音ふたつ寒卵        小林 和子 

寒木に差引くもののなかりけり       吉田健一郎 

留守番をさびしがる夫寒雀         松村 静江 

たびら雪遊びごころを積みにける      中村なづな 

きのふよりけふよりあした梅ふふむ     木村 保夫 

長命の篩にのこる年の暮          葛西 幸子 

春隣風真二つにペダル踏む         松尾 美咲 

来し方に忖度もあり落葉掻く        近藤 育夫 

寒紅や白寿の母の祝ひごと         萱原 祥暢 

岩海苔の緑はじける怒濤音         小林 玲子 

来年のこと言ふ母や飾取る         柳澤 和宏 

良く見える眼を得ていよよ春の星      成田 圭子 

寒鴉鳴くこの家の主はDVです       青木 宣子 

一遍の御御足包む寒の寺          木村せい子 

紅梅や次々帰るランドセル         小原けい子 

臘梅花散財らしきこともなく        白木 惣一 

荒磯神の鈴の空鳴り風花す         田中 玲子 

振り上ぐる仁王の独鈷虎落笛        多田 敏弘 

街灯にあつまつて来る牡丹雪        渡辺多佳子 

立春や影ちらつかす雀どち         三上悠恵子 

凍星を汲み零しては観覧車         田辺ゆかり 

釣竿の食ひの渋さや如月来         谷  就応 

折鶴に吹き入るる息梅早し         松本千代美 

紅梅の気配たしかに夜の奥         笠原十九司 

消えぬまに恋せよ盆の雪うさぎ       上本 白水 

傷のある邃古の梅のはなざかり       髙野よし子 

風花や路傍の小さきされかうべ       宮坂 恵子 

春燈の障子をあけて徳利振る        宮田 聖善

4月の推薦句(花樹の道より) 

 

文楽の女は阿呆や雪中花          木村 郁代 

樺色の代々の棟札煤払           大熊 小葉 

幼子の倦きたる午後や餅四斗        西村 綾子 

起き抜けの慣ひや雪の機嫌見る       武田 詩子 

河豚の宿山頭火の句べたべたと       濵名 カヨ 

光陰や佛間ととのふ白障子         髙橋 信子 

能管の拉ぐを漏らせ梅真白         徳田 文三 

雪しんしん色あるものを消してゆく     小泉 光子 

来しバスに冬帽席を埋めゆけり      佐々木あや子 

お日様をぐいと引き寄せ蒲団干す      村田  惠 

握り拳ほどかぬ稚の初湯かな        五十 青史 

柚子風呂に肩まで浸り詩を吟ず       西田まゆみ 

初笑させてはほろと泣く噺         田辺ゆかり 

初詣滾るうどんに靴を脱ぐ         末次 菖夫 

松飾取り無機質なドアの顔         阿部 明美 

こそばゆき手の平小さき独楽巡る      神谷小百合 

地に下りても静止なとなき寒雀       福田三千江 

読初めの夢十夜なる夢の中         三浦 靖代 

よくもまあ皆俯きて暖房車         柳澤 和宏 

書き入れて生活の動く初暦         曽我 欣行 

昇り来る授業チャイムや蜜柑山       大村 生雲 

餅搗の蒸気と遊ぶ孫ふたり         青木 宣子 

三掬ひの水にことしの顔洗ふ        中村なづな 

けふからは薄口醤油討入り日        谷  就応 

振り上げて父の重みや初田打        榊原 淑友 

句会終へ帰る堤や春星忌          笠原十九司 

寒鯉や恥を忍ぶは是れ男児         白木 惣一 

水底の蒼さに雪の夜明けかな        渡辺多佳子 

ことことと蓋の旨鳴り薺粥         小西 弘子 

泳ぐでなく流さるでなく冬の鯉       小原けい子

 

 

3月の推薦句(花樹の道より) 

日捲りの右傾左傾や十二月         小西 弘子 

三田尻御茶屋十八室の白障子        大村 生雲 

米刺突くおやぢの破顔今年米        葛西 幸子 

小春日やお一人様を満喫す         谷  就応 

神無月瞳なき凝視の大だるま        篠崎貴美枝 

茶の花の開きてよりの日和かな       平尾 潮音 

富士山はいつも存るもの十二月       石田 福子 

鴨の水脈重ね重ねてきらきらと       曽根 聖子 

リハビリはひよこの歩み小春かな      筒井真由美 

晴着脱ぎ小さな欠伸七五三         武田 詩子 

町川の嵩増ゆるかに白鳥来         清水 雪江 

擂るたびに胡麻のよろこぶやうな音    佐々木あや子 

大枯野一声吼えて電車過ぐ         袴塚美佐子 

冬至粥長きは妻の長寿箸          半田多佳夫 

花柊夫と娘のゐて午後のお茶        森﨑美保子

冬日向庭石でんと亡主のごと        加藤八寿子 

酒徳利に折詰提げて顔見世へ        今井 東紀 

金平糖零れてしまひ野水仙         栗原 実季 

寒薔薇の一輪を手に妹のがり        五十 青史 

鷲掴みして大根の鬼おろし         新井みほ子 

称ふるより慕ふ千空冬ぬくし        大川 恵子 

くつきりと母の血脈の這ふ鱈子       古谷 誠司 

何をする訳でもないが十二月        佐々木章子 

淡々と終はる長編村時雨          橋原 涼香 

背かれし日は荒々と落葉掻く        木村 保夫 

憂国忌どこへともなく蹴るボール      家登みろく 

しぐるるや城下に熱き千空論        成田 圭子 

牡丹焚く名優二代吉右衛門         津川好日子 

山茶花のよく散つてゐてよく咲いて     曾我 欣行 

まつすぐに響く鶏鳴憂国忌         琲戸 七竃

2月の推薦句(花樹の道より) 

白鳥をいくつ数へていくつ老ゆ       渡辺多佳子 

枯れ切れぬ色を残して柿落葉        吉田健一郎 

鵙凶悍大菩薩嶺に昼の月          笠原十九司 

白鳥の聲届かんかとどけんか        松本千代美 

人は皆演者に見えて冬鴉          筒井真由美 

青白く燃ゆる自分史焚火中         五十 青史 

コロナ禍を祓ふ空砲在祭          間宮  操 

柿剥けばⅮNAのごと螺旋         谷  就応 

はらからの減りゆく母へ栗饅頭       柳澤 和宏 

大仰に泣く秋の夜の太郎冠者        内田 和子 

母の記事金木犀の香と届く         権藤 順子 

鯛小判おたふく俵大熊手          琲戸 七竃 

秋燕の大地を空を惜しみつつ        青木としゆき 

突風に戻され我も冬蝶も          太田 量子 

秋草に深く息せり日影蝶          宮坂 恵子  

母よりも姑想ふ薄紅葉           荻野 善子 

藁塚を車窓に見つけ箸休む         齋藤 勝茂 

何成さず我の暮れゆく神無月        青木 宣子 

ピストルのやうな検温冬に入る       小西 弘子 

選挙カー静かに止まり留守詣        古谷 誠司 

秋蝶は逝きし人とてそつと追ふ       栗原 実季 

買ひ溜めて生き抜くつもり鵙の贄      新井みほ子 

甲斐駒と一対一や秋田打つ         松林 新一 

七五三寿限無寿限無の親心         津川好日子 

茱萸の実にでこぼこ嬰の手にゑくぼ     橋原 涼香 

十五分厳守の見舞ひ藪柑子         岩井 秋津 

霜月の孕みかまきりはち切れさう      末廣 隆子 

座らせぬための椅子置く文化祭       大川 恵子 

書棚には今もゲバラや冬帽子        木村 保夫 

帰るとも帰らないとも蒲団干す       木村せい子 

1月の推薦句(花樹の道より) 

ゐのこづちとがつてゐよう卒寿まで     山口 高子 

先頭が引く綱重し白鳥来           髙田美津子 

露の石光ることより空明けて        曽我 欣行 

夫と吾と眠らむ半坪猫じやらし       木村 郁代 

かまきりは演者のやうに動きをり      望月津㐂子 

煙草売るだけの小窓や雁渡る        田辺ゆかり 

遮断機の上がれば故郷稲雀         伊藤 亜紀 

荻の声とは過ぎゆきし風のこと       吉田健一郎 

ありがたうごめんねに添へ蜜林檎      木村  茜 

秋声や父の書斎に満鉄史          木村 保夫 

小鳥来る母となりたる子の窓辺       宮坂 恵子 

雹痕の林檎ひと箱賜りぬ          中村 百仙 

二歳児の知恵にてこずる猫じやらし     大熊 小葉 

鬼哭啾啾総て刈られて彼岸花        藤  大和 

独り居の自由不自由神の留守        西野智壽子 

踏んで踏んで鳴らすオルガン秋うらら    橋原 涼香 

無花果や母は真白き割烹着         村田  惠 

団栗を踏みて危ふき古稀なりき       岩井 秋津 

豆柿や鶏の鳴き声通りまで         福本美智子 

あらたうと鳥居の苔の露の玉        藤原 昌仁 

四本のきらめくオール水の秋        萱原 祥暢 

初鵙や泥染み残し作業服          大村 生雲 

鈴虫や眠りに入る稚の指          森田千枝子 

ひと転げすれば未来や青瓢         上田 恵子 

疵ものも繕ひものも名残の茶        津川好日子 

木の実避けふらつく婆あばここにをり    水田雪中花 

魂が脱け出して行く大花野         松本千代美 

名月や早ばや片す厨事           安達とよ子 

萩刈つて地に明るさの戻りけり       間宮  操 

ディスタンスなぞ要るものか曼珠沙華    谷  就応

 

12月の推薦句(花樹の道より) 

 

 

草田男の千空の影星飛べり         中村 百仙 

燃えたちて闇の深まる苧殻の火       吉田健一郎 

迎へ鐘先に幽霊飴買うて          青木 宣子 

千空の国原稲の花ざかり          笠原十九司  

唐辛子すがるものかと曲りけり       琲戸 七竃 

送り火や緞帳のごと雲立ちて        角田 貴彗 

手を伸べて雨窺へば秋の蝶         柳澤 和宏 

祭などなくてみちのく虫集く        廣田 苧惠 

ゆつたりと波の随に盆の月         村田  惠 

迷彩の皮脱ぐ夏のプラタナス        西野智壽子 

岩木山見るための阜(をか)草雲雀      松本千代美 

まんばうも貝も眠らず今日の月       平尾 潮音 

昃(かたむ)けば皺(しぼ)寄るさだめ紅蜀葵         新井みほ子 

エメラルドのごとき目玉や鬼蜻蜓      多田 敏弘 

大利根を超えて出張鰯雲          下山田 俊 

秋暑し喋り続ける券売機          篠原 久子 

くつきりと星に遠近梅雨明くる       大村 生雲 

進みつつ止りとまりつすすむ秋       濵名 カヨ 

スピッツは鳴かせておけば零れ萩      谷  就応 

棒で描く線路は続く新松子         栗原 実季 

けふはまた小さくなりしほろろいし     中村なづな 

鮞を抜かれし鮭はさみしかろ        髙𣘺 敏夫 

金木犀妻の分もと深く吸ふ         五十 青史 

ペコと開く防災の日の味噌煮缶       光井加代子 

秋光の破片燦爛干潟かな          松尾 美咲 

釘吐いて屋根打つ大工天高し        曽我 欣行 

ゆるやかに流す話や秋扇          宮本紀久代 

柿食ふや夙志は遠くなりにけり       平井 靜代 

鳶の輪を一直線に夏燕           橋原 涼香 

真夜中の雲をあざあざ稲光         古谷 誠司

11月の推薦句(花樹の道より) 

 

地に石に水に灯して地蔵盆         平井 静代 

這ひ這ひのやがて眠れる夏座敷       木村 郁代 

郭公の吃り鳴く日や父遠忌         葛西 幸子 

盆過ぎの墓に戻りし風の道         成田 圭子 

短夏少女のままのラマ尼僧         山川 漠千 

寝かされて真菰の馬の売られをり      小西 弘子 

ちちははの知らぬ高階盆迎         木村  茜 

人肌に下げてゆつたり土用の湯       谷  就応 

子育てを思ひ出すやに袋掛         森﨑美保子 

生き残り金魚さびしく太りたる       木村 郁代 

軍服の遺影の下の萱に寝る         木村 保夫 

藻の花や眠い子のため母歌ふ        家登みろく 

マネキンの素早き着替へ夏来る       廣中  舞 

短夜や昨夜の鴉か又騒ぐ          大木 黄秀 

渾身のちから落蝉すがりくる        五十 青史 

電子浮子飛び交ふ港夏の月         林  一酔 

薫風やじやんけんほかほか北海道      澤田冨士夫 

草むしり進みてラジオ遠ざかる       光井加代子 

爽やかに前処置進む検査室         阿部 明美 

胙を汁に入れたり夜の秋          中村なづな 

通勤の路上で黙祷原爆忌          権藤 順子 

永いやうで短き一分原爆忌         廣中  舞 

秋蝶の骨無き墓に止まりをり        甲斐 酒巷 

末つ子はいつも末席魂迎          半田多佳夫 

道化師のカンカン帽がやつてくる      中村 美蔦 

お勝手の洗ひもの未だ土用入        石田 福子 

谷川に西瓜浮かべて山仕事         久野 敬子 

魂棚に笹の葉ずしも祖母の家        小原けい子 

嬰児の小さきスプーン冷奴         佐々木龍雄 

麦藁のストロー復活みかん水        濵名 カヨ

10月の推薦句(花樹の道より) 

 

標本といはれなきがら青嵐         渡辺多佳子 

はや詰みし午前六時の雲の峰        柳澤 和宏 

夏掛けをはみ出してゐる余生かな      髙野よしこ 

夕焼の勿体無くてまだ畑          光井加代子 

経済は原論が好き青林檎          吉田健一郎 

津軽(つんがる)は光の坩堝花りんご      葛西 幸子 

風鈴の話しかけくる夕べかな        曽我 欣行 

朝靄を直球のごと杜鵑           松村 央美 

天辺に戻り来る夏大天守          満瀬 哲子 

三重の仕事瑕疵無し捩花          権藤 順子 

人の所為にするが後生楽ふうりん下     末次 菖夫 

新緑は杜の目薬歩くなり          清水 雪江 

水琴窟地祇へ鳴らして風涼し        伊藤 亜紀 

お母さんありがたうとて麻衣        小林 和子 

黒文字を添へて佛へ葛ざくら        森棟 正美 

大青田震災遺構目交に           萱原 祥暢 

祈るとは願ふにあらず梅雨の星       杉本喜和子 

もうゐないまんまる口の子燕よ       間宮  操 

驟雨去り驟雨のやうに街始動        家登みろく 

さくらんぼ指環は小さき手錠なり      角田 貴彗 

手を洗ひ洗ひつづけて桜散る        廣田 苧惠 

消防ホース干さるる高さ夏燕        松尾 美咲 

落蝉の命乞ふ瞳を見てしまふ        五十 青史 

前山は古墳のまろさ夏蕨          宮﨑 嘉子 

偸安や海月見てゐる橋の上         木村  茜 

佳き風の伊勢宮よりの扇子かな       田口 妙子 

飛石は和服の歩幅杜若           松村 千鶴 

麦星や海の底なる特攻機          浅野フク子 

青田波小舟さながら市民バス        齋藤 一子 

洗ひ髪風にまかせて聞く葉擦れ       太田 量子

♦令和3年9月号の推薦句(花樹の道より) 

乾麺の帯を解きぬ走り梅雨         光井加代子 

緋牡丹の崩るる刹那長きとも        塚本千代子 

空噴気かししたき青春栗の花        松本千代美 

月蝕のはたて吾が顔取り戻す        角田 貴彗 

夏燕生活は常に一直線           間宮  操 

知らぬ間に呟く小言曹達水         神谷小百合 

迅雷の刹那草木身を正す          渡辺多佳子 

海鳴りの廃レストラン雨燕         宮坂 恵子 

種蒔きて待つ喜びを殖しけり        葛西 幸子 

菖蒲田の彩り咽ぶ甚雨中          渡辺 紀美 

でで虫よ眺めても見よ知多の海       松田 範子 

馬鈴薯の自己最高を収穫す         山本  剛 

教室のすみつこゆらす金魚かな       大熊 小葉 

蔦若葉また初めから揺れはじむ       吉田健一郎 

朝顔の双葉が三つ子は一人         一村 晶代 

とねりこの花の煙りて白昼夢        浅野フク子 

栗の花鼻腔ふくらむ磨崖仏         田辺ゆかり 

稚の衣一夜で仕立つほととぎす       村田  惠 

記念樹の子も二十七梅熟す         石原 静世 

おほいなる残んの萼牡丹散る        髙橋 信子 

新茶汲む茶筒を滑る錫の蓋         津川好日子 

おづおづと車輪分け入る出水中       古谷 誠司 

追ひ風二米九秒九五楠若葉         山口 高子 

サーファーに北斎の浪いつか来る      木村  茜 

中空に麒麟の涎緑さす           岩﨑智代子 

鱒鮨や十六方に笹みどり          木村 保夫 

仏恩もゆたかに新茶汲みにけり       平井 靜代 

遠ざかる記憶の螺旋かたつむり       平尾 潮音 

新茶汲むなみなみなみと父母に       水田雪中花 

梅雨を曳く疫病いのちのトリアージ     谷  就応 

♦令和3年8月号の推薦句(花樹の道より) 

 

春霖へ出づ明るしと言ひ残し        柳澤 和宏 

一人居の無気力気力豆ご飯         大石 幸子 

膝折りて諭す保育士花いばら        小林 和子 

言葉もう古びし夫婦新茶汲む        吉田健一郎 

来し方のしき降るさくらさくらかな     髙𣘺 敏夫 

ふと力抜く真夜中の水中花         松本千代美 

堰落つる水は宝石田植時          平塚 泱子 

日脚伸ぶ馬の遊具にコイルバネ       川村 糸己 

一打ごとシニアの歓声芝萌ゆる       小田切倫子 

田植機の水面のお山踏み進む        成田 圭子 

頷いて誉めて一人の豆ご飯         糸山 栄子 

布衣の稚児まとはる春の風に舞ふ      天野 慧舟 

史跡ある道も史跡や風五月         松林 新一 

ⅠSS漢が漢へと継ぐ立夏         水田雪中花 

桜蘂あまた散らして夫の忌ゆく       末廣 隆子

剪りし藤酒に挿したり生き生きと      森﨑美保子 

笹粽解けばこぼるる故郷の香        小原けい子 

独り寝にスタンド灯す遠蛙         松尾 美咲 

うらがへる犬の食器や旱梅雨        大野 和代 

乳母車に立ち上る児や風薫る        篠田  暘 

田水張る土竜の穴のがぼと鳴る       石原 静世 

通学の少女らの羽化更衣          平尾 潮音 

候補者の名が遠ざかる昼寝覚        栗原 実季 

余り苗はや根付きをり抜き難し       山下 峯一 

新調の背広を腕に夕ざくら         曽我 欣行 

おしなべて不要不急よ風車         家登みろく 

鯉幟の尾を掴まんと騒ぐ子等        後藤 朋士 

花吹雪夢は消えたり生まれたり       森田千枝子 

百歳を寿ぐ薔薇を剪りにけり        山本  剛 

傍らに人の恋しや虹二重          小泉 光子 

♦令和3年7月号の推薦句(花樹の道より) 

春の夜の夫の看取りやありがたう      髙野よし子 

父さんを探す放送春霞           光井加代子 

「立ちませう」たつたひとりの新入生    大熊 小葉 

満ち充ちて頻迦の翼瀧ざくら        田辺ゆかり 

ブランチは浅蜊のパスタ海光る       小林 迪子 

囀やミモザサラダに黄身いつぱい      木村せい子 

小屋掛けに手書きの旗やつけば漁      中村 百仙 

グリフォンへ止まぬ噴水春の庭       小西 弘子 

そら豆の目を確かめに母郷訪ふ       青木 宣子 

無為なればすぐに過ぎ去り春の午後     田端 千鼓 

かぎろへる疫病に恃む石敢當          佐々木あや子 

夢みたいな事考ふる桜どき         阿部 明美 

初桜夫ゆかせては涙もろ          山内 香月 

農の肩初蝶に貸し一休み          森岡 青潤 

忌日来し花の十日を母とゐる        木村  茜 

空ばかり見てゐた頃や草の笛        木村 保夫 

蒙古風大きとさかの風見鶏         武田 詩子 

起きぬけの水かむやうに万愚節       廣中  舞 

潺潺と花吸ひ込みてゆく暗渠        平尾 潮音 

手綱跡顔に残して孕み馬          木下 早苗 

古名の誉れ葛飾中学八重桜         小田切倫子 

花なづな揺れて明日の約束を        橋原 涼香 

アツバとも呼びたきひとの春炬燵      中村なづな 

花の下「いのちの初夜」をいま読まむ    石田 福子 

蛍烏賊の取りこぼれし目歯にあたる     濵名 カヨ 

二輪草無言で過ごせる友のゐる       太田 量子 

窓開けて飛花入れさせよ風のまま      国府田洋子 

コロナ禍の大和の国にさくら有り      榊原 淑友 

花吹雪絵本のやうに電車来る        小原けい子 

煌々と追込み工事桜の夜          古谷 誠司

♦令和3年6月号の推薦句(花樹の道より) 

太棹はだわらだわらと春嵐         葛西 幸子 

桜咲く止めて止まらぬ腹の虫        国府田洋子 

朝刊の深雪漕ぎきし跡新た         佐々木あや子 

香の中に香を見失なふ梅林山        山本 道子  

到来の地酒一本目刺焼く          村田  惠 

みこしやどまでが神域寒日和        岸本 千絵 

いつぱいに開く新聞春炬燵         筒井真由美 

通学路下見の母子朝の梅          小西 弘子 

アカペラで競ふ青春若葉風         袋田 隆晴 

降り来れば四五畳ありぬ奴凧        古谷 誠司 

じやんけんで何が始まる蕗の薹       藤  大和 

どこまでも傾かずにと雛流す        増田 順子 

建国祭一粒チョコにバーコード       松村 央美 

啓蟄やズボンのスマホ動きだす       森岡 青潤 

畳屋のある駅前に燕来る          太田 量子 

花ふたたび為すことならぬあれやこれ    平尾 潮音 

桜餅ますく外して素の笑顔         小林 迪子 

釣釜を揺さぶる煮えや利休の忌       津川好日子 

春寒の戸板に釘の涙すぢ          山下 峯一 

ものの芽の一気呵成の信濃かな       柳沢 治幸 

春めきし町に戸惑ひ退院す         柳澤 和宏 

佇めばここは病棟春の雨          小林喜久雄 

水門の四方分水初ざくら          石田 福子 

掃き寄せを蹴散らす小鳥春浅し       大木 黄秀 

牛小屋も仔牛小屋にも飾かな        大村 生雲 

春浅きこと風に聞き雲に聞き        川村 糸己 

帰るにはまだ早すぎて土筆摘む       曽我 欣行 

はちきれんばかりの花屋風光る       来栖 章子 

草餅を佛の夫の待つ家路          西野智壽子 

山笑ふこけし朱墨の耳もらひ        角田 貴彗 

♦令和3年5月号の推薦句(花樹の道より) 

お日様のすとんと消ゆる白障子       松村 静江 

雪竿の上の月山風の荒れ          武田 詩子 

桜鯛跳ねて四郎が浜の網          満瀬 哲子 

聞くならくお城の紅梅ほぐれしと      甲斐 酒巷 

冬木の芽軍人の墓横並び          多田 敏弘 

はじかれて飛ぶ海鳥に冬怒涛        松本三美子 

寄せ墓にまじる馬墓冬たんぽぽ       北山 恭子 

「考へる葦」によろしき寒さかな      新井みほ子 

雪こんこん昼夜火を抱く登り窯       木村せい子 

春を待つ触れて語らふ自由待つ       小林 和子 

飾焚きさはさは潮の満ち来たる       山下 峯一 

一枝選ぶ鋏の音や寒椿           森棟 正美 

泰平を祈る形に雪だるま          村田  惠 

インク壜青々として初日記         髙𣘺 敏夫 

石鎚山をよすがに伊豫や年新た       森﨑美保子

愛に満ち愛に乾きて春日傘         家登みろく 

啓蟄や神は骰子振りどほし         中村なづな 

ほぐしたる春の玉菜の水弾く        渡辺多佳子 

潮の香の入り来る大河菜の花忌       安達とよ子 

蜀黍を噛むや何やらひたすらに       沼田真知栖 

針ほどの芽を吹く球根反抗期        間宮  操 

寒日和妣に厳しくありし日も        竹内 伸子 

二ン月の鴉哭くとも嗤ふとも        田辺ゆかり 

とぼれては舞立つ火の粉初えびす      松本千代美 

亀鳴けり照り翳りして来る余生       平井 靜代 

音連れて寺屋根離る大雪塊         川村 耕泉 

新聞に春の字溢る春炬燵          岩井 秋津 

冴返る言の葉の海インク壺         平尾 潮音 

錆竹のぬぎ散らす葉や春の土        中村 美蔦 

包丁の切れ味なまり真砂女の忌       石田 福子 

♦令和3年4月号の推薦句(花樹の道より) 

餅を焼く昭和平成令和かな         成田 圭子 

山唄を天に聞かせて千空忌         葛西 幸子 

雑兵の墓は石塊冬の鵙           北山 恭子 

さてと立ち終ひ正月終ひけり        濵名 カヨ 

親しくも付かず離れず切山椒        村田  惠 

初声や若冲の鶏一斉に           津川好日子 

すつきりと生きるつもりの煤払ひ      森田千枝子 

赤べこのとぼけ顔して三日かな       大石 幸子 

里深雪覆はれてより見ゆるもの       杉本喜和子 

時に火は人のかたちに大どんど       阿部みづき 

為来りに慣らふ料理や去年今年       髙田美津子 

山茶花を掃き寄せ睦む爺と孫        森﨑美保子 

よく眠る白障子てふ繭の中         宮坂 恵子 

ふかぶかと口中の虚寒の鯉         竹内 伸子 

飽食に感けお節の蝦や鯛          谷  就応  

腰立つることが休息雪卸し         髙橋 信子 

立春の大歳時記をどさと割る        田端 千鼓 

初詣親子そろつて表付(おもてつき)      五十 青史 

寒林や人ならぬ音ついてくる        小西 弘子 

元朝の誰待つでなく待つこころ       一戸  鈴 

この先も夫の墓守れ龍の玉         清水 雪江 

荊妻と帰る銭湯湯ざめすな         笠原十九司 

何事も無きかの如く三箇日         神谷小百合 

綿虫や孫叱らるる声痛し          間宮  操 

輪飾りを母押すカートにも一つ       柳澤 和宏 

鳩雀みんなご近所お正月          新井みほ子 

冬ざくら決してさみしいとは言はぬ     平尾 潮音 

喪ごころにあかだまの実をいとほしむ    田中 玲子 

若水に替へて小鳥を待ちにけり       吉田 遼吉 

息詰まる日々の中なり初笑         小原けい子

♦令和3年3月号の推薦句(花樹の道より) 

 

風よりも泥のぬくとよ蓮根掘        田辺ゆかり 

母さんの爪切りに行く小春かな       北山 恭子 

謐けさに息止まるほど冬の蝶        竹内 伸子 

ともかくも亥の日の暖房始めかな      濵名 カヨ 

母真似て我も七十吊柿           榊原 淑友 

子の子はやわが丈となりお正月       平尾 潮音 

冬落暉軍艦島の燃え上がる         松尾 美咲 

雪吊の松花結び高く見ゆ          田村 幸子 

行く秋や音に震へる撞木の緒        大島 良子 

溜息の三四十二か十二月          琲戸 七竃 

大きさを手柄のやうに朴落葉        太田 量子 

はづされて積まれて絵馬や師走空      曾我 欣行 

嫁ぐ日近き孫の横顔枇杷の花        宮﨑 嘉子 

冬の虫軽く揉まれてなにもなし       中村なづな 

一言で謂へば「退屈」日向ぼこ       谷  就応  

掻きつつも積もる速さの雪の声       清水 雪江 

白鳥の離れふたたび水黒む         家登みろく 

大好きなマフラーが来る日曜日       橋原 涼香 

前衛峰(ジャンダルム)の垂直の空鷹舞へり  髙𣘺 敏夫 

大くさめ八方の目の芯となる        田端 千鼓 

次々と妻の指図や年迫る          坂場 俊仁 

風の音全音上がり年果つる         大野 和代 

なぜなぜの止まぬ幼子冬たんぽぽ      栗原 実季 

煖炉の火育てるまでの寡黙かな       木村 保夫 

介護五年御用納めの無き五年        五十 青史 

しぐるるや傘に聞きたき母の声       小西 弘子 

クリスマス光の中を帰りけり        小原けい子 

流されし距離を戻れり浮寝鳥        小村 一幸 

神へ子の礼ふかぶかと山眠る        伊藤 亜紀 

小春日の涅槃悠悠阿蘇五岳

♦令和3年2月号の推薦句(花樹の道より) 

冬桜少女の櫂は音立てず          栗原 実季 

枯蟷螂動く途中の様をして         田端 千鼓 

裏窓に都電の響き花八ツ手         木村 保夫 

お茶の花母は卒寿となりにけり       髙橋千鶴子 

腰おろす母冬薔薇の日だまりに       松本千代美 

京に生れ京のたつきや室の花        松村 千鶴 

雀群れ雀の空や一茶の忌          間宮  操 

目力のだるま大師やはぜ紅葉        森田千枝子 

ただ歩くことを日課に返り花        小原けい子 

美容室の鏡離るる冬夕焼          小林 迪子 

手水舎に石工の名前小鳥来る        光井加代子 

行く秋の回転木馬走り了へ         加藤八寿子 

握る手の離し難さに山茶花散る       家登みろく 

柿食へば妻の遠忌が近づくよ        佐久間健治 

雪迎へむかへにいつてそれつきり      宮坂 恵子 

抱かれて少女に触るる芒かな        宮田 聖善 

マストめく古松の支へ小鳥来る       岸本 千絵 

秋高し直線無敵の三冠馬          木村せい子 

鮮やかな舅の手わざ一夜鮨         宮本紀久代 

鬱ぎゐて母恋ふる日の菊膾         糟谷 雅枝 

散るときは拳のかたち白芙蓉        吉田健一郎 

短日や絞らずに干す柔道着         大川 恵子 

秋桜の色を束ねて備前壺          小野 昌子 

転居未だ旅情めきたる初時雨        清水 雪江 

褒められもせず足速の白鶺鴒        加藤  仁 

林檎捥ぐ津軽の空を軽くして        小田桐素人 

誘ひても出て来ぬ母や月明し        柳澤 和宏 

平凡な距離を保つよ浮寝鳥         木村  茜 

父の忌や手水に揺るる弓張月        大熊 小葉 

けむり茸影踏み鬼に加はりぬ        角田 貴彗

♦令和3年1月号の推薦句(花樹の道より) 

 

一粒一粒膨らむ明日青葡萄         沼田真知栖 

後藤伍長像視界の中の通草採り       田端 千鼓 

山叺雀の学校(がっこ)の忘れもの      宮坂 恵子 

秋茄子をもう一つ載せ小商ひ        竹内 伸子 

幾たびも梯子掛け替へりんご捥ぐ      成田 圭子 

吾亦紅聖画描きてサインせず        安部眞希子 

しのこした事はこととし蛇穴へ       山口 高子 

下駄の歯を減らし下駄替へ夏終る      加藤  仁 

我立つはジュラ紀の大地流星群       木村 保夫 

曼殊沙華夢の中にも曼殊沙華        光井加代子 

どうなつても良き心地せり秋の山      髙田美津子 

水蜜桃の香にいつぱいのほとけさま     平井 靜代 

名月や在らば朗らの姉二人         木村せい子 

約束をきれいに忘れ草の絮         髙野よし子 

秋爽の雲に預くる旅ごころ         谷  就応

青みかん嚢は火とぼしごろの色       中村なづな 

残心の構へ律々しや秋高し         小田桐素人 

秋耕の一上一下老の鍬           柳沢 治幸 

大津絵の鬼と向きあひ秋うらら       木村  茜 

溢蚊のよろよろと来て鋭くも刺す      木村 郁代 

忘れる日思ひ出す日や草の花        大川 恵子 

師晶子しのぶ新酒にしをり初む       田中 玲子 

二メートル心を隔てそぞろ寒        平尾 潮音 

騾馬の前髪結ひて上げたし秋桜       多田 敏弘 

どつこいしよ立つも坐るも鰯雲       石田 福子 

老舗ちふ矜恃畳めぬ秋の風         宮本紀久代 

またしても熊の出没ばつたんこ       水田雪中花 

羽根伏せてとんぼ目玉で考へる       吉田健一郎 

木の実降り次つぎ生るる水輪かな      飛田 伸夫 

手づかみが似あふおむすび稲刈れり     中村 百仙 

♦令和2年12月号の推薦句(花樹の道より) 

  

かなかなの水湧くやうに鳴きにけり     渡辺多佳子 

大地まだ踏まぬ赤子や天高し        登川 笑子 

洗ひ馬脛の静脈浮き立てり         多田 敏弘 

瞳も唇も眉も十五の夏光る         竹内 伸子 

おひねりのやうに閉ぢゐる月見草      武田 詩子 

研ぎ終へし出刃の切れ味涼新た       成田 圭子 

秋霖のしづかに午後をうばひけり      宮本紀久代 

小鳥来るどんどん並ぶ泥団子        栗原 実季 

秋あはれきりんは立つたまま眠る      髙橋由紀子 

ひと雨の涼しさを連れ母を訪ふ       木村 郁代 

縺れつつ乳追ふ仔牛秋桜          橋原 涼香 

衣被つるりと祖母の子沢山         小林 和子 

一位の実触れてこぼるる火のごとし     一戸  鈴 

夏惜しむガラスの器揃ふ卓         佐々木あや子 

灸花みんなゆるしてもらひけり       村田  惠

懐郷のうすれゆく夫雁来紅         間宮  操 

病葉の瓦を滑る暑さかな          大木 黄秀 

遠山に呼ばるるごとし明易し        沼田真知栖 

紺碧のつくもの浜に鰯来る         岡本 幸子 

秋鯖の糶り残されし鈎の痕         五十 青史 

妹が姉に思へる稲の秋           髙田美津子 

更けてなほ戸締り惜しむ良夜かな      佐々木龍雄 

物忘れ字忘れつるべ落しかな        平井 静代 

ゐのこづち付く路恋し旅恋し        小西 弘子 

十まりの鈴虫の朝なま臭し         中村なづな 

風鈴の一斉に鳴る不安かな         伊藤 亜紀 

幾月も笑ひ忘るる吾亦紅          甲斐 酒巷 

日常といふ脆きもの秋刀魚焼く       小原けい子 

静臥すれば音よく立つる秋簾        柳澤 和宏 

補聴器の音とよみたつ秋暑し        田中 玲子

♦令和2年11月号の推薦句(花樹の道より) 

少年のどこか危ふし長なすび        木村  茜 

背泳ぎの空に雲浮くわたし浮く       橋原 涼香 

足鰭をひらりくるりと蜑すずし       琲戸 七竃 

子守宮の親より高く壁に居る        木村 保夫 

花茣蓙の香りの中を這ふ子かな       曽我 欣行 

蜘蛛の子のいのち軽々はこびけり      嶋村 健嗣 

金網に食ひ込む白球雲の峰         栗原 実季 

烏瓜の花綿飴のごと萎む          渡辺 厚子 

盆花のあふれて佛間調へり         髙橋 信子 

噴水を眩しみ耳をあづけをり        田村 幸子 

あぢさゐの雨の重さを掌          宮坂 恵子 

晴れ晴れと鳴く蟬啣へ猫帰る        青木 宣子 

蓮弁に触るるやそれは天衣         小林 和子 

鳴らずとも耳の底には祭笛         藤田 明子 

受診待つ骨まで透けて熱帯魚        竹内 伸子

一匹の蠅追ひ回す敗戦忌          篠田  暘 

年々や声の老いゆく金魚売         田端 千鼓 

教会へ回覧板や花いばら          髙木 喜代 

臥せ牛のやをら立ちゆく日雷        田辺ゆかり 

広島忌ホースの水を天へ撒く        小泉 光子 

氷山の崩壊音か冷蔵庫           谷  就応 

まだ余韻残るグランド夏の雲        松尾 美咲 

蟬しぐれ九九のいやいや7の段       石田 福子 

盆過ぎの無常や風のちぎれ雲        田中 玲子 

大工らの木の香に浸り三尺寝        小林 迪子 

大南風に心帽子のやうに飛ぶ        家登みろく 

誕辰の母を誘ひて銀河見し         権藤 順子 

素団子ゆらゆら煮えて送り盆        松田 範子 

夕食の仕度早目に巨人戦          奈良 竜胆 

白靴を父に揃へし日もありし        増田 順子

♦令和2年10月号の推薦句(花樹の道より) 

 

鼻も口も塞がず通る青田道         山内ひろ子 

明易く夫の気配の既に無く         板鼻 弘子 

茉莉花に父の逸話のあまたたび       柳澤 和宏 

飄々と来て恩師去る昼寝覚         加藤  仁 

スケボーを蹴上ぐや炎暑の打撃音      古谷 誠司 

箸置きはガラスの一葉夏座敷        伊藤 青砂 

子と二人蛇の住む家守りけり        山口 高子 

父の遠忌ぐんぐん育つ夏の雲        木村せい子 

初茄子を細かに刻み母の膳         松本千代美 

影と来て光となるや夏燕          角田 貴彗 

追伸の一筆の重梅雨黄蝶          間宮  操 

夏灯隙間だらけの農具小屋         田端 千鼓 

語らねば知らぬも同じ終戦忌        吉田 遼吉 

妻がゐてこの世にもどる昼寝覚       吉田健一郎 

刻刻と匂ふ白百合誕生日          栗原 実季 

六甲は疾うにびしよぬれ額の花       渡辺多佳子 

十薬を干してつくづく祖母遠忌       篠田  暘 

当主老い外が大好き夏つばめ        髙田美津子 

山門に仁王の許す蟻地獄          小西 弘子 

凌霄の豪奢な庇地蔵堂           大熊 小葉 

知らぬ間に少女となりて髪洗ふ       本村ゆう湖 

次次と開くせはしさ茄子の花        大島 良子 

青竹の手水を受けて夏祓          吉原 照子 

宅配の置いてすぐ去る夏燕         岸本 千絵 

麦秋の波の載せたる農一戸         伊藤 亜紀 

帰りにはもう新しき植田風         松尾 美咲 

木下闇骨浮く猫の息遣ひ          橋原 涼香 

庭中のどくだみ干して午となる       大村 生雲 

父と母は明治の子ども雲の峰        平尾 潮音 

口実に想定外とよ蜥蜴逃ぐ         安部眞希子 

♦令和2年9月号の推薦句(花樹の道より) 

 

線香の丈より小さき甘茶仏         加藤  仁 

ゆるやかに確と岩木山の更衣        三上悠恵子 

横倒しのゴールポストや麦の秋       山本  剛 

鮎を待つ魚道この世の転換期        太田 量子 

けふ一ト日一汁一菜桐の花         新井みほ子 

辣薤を洗ふ都知事は新語生む        小林 和子 

夏椿花より先に影の落つ          田端 千鼓 

胸病みし頃思はでか昭和の日        伊藤 青砂 

石斛や履物少しづつ直す          中村なづな 

蚊遣火の渦の崩れに夜の軌跡        宮本紀久代 

妻たらず母たらず老い桐の花        平井 靜代 

かりそめがいつしかひと世新茶汲む     竹内 伸子 

梅雨湿り雨戸をだましだまし引く      石田 福子 

底つ根のまつたき飴色蝉の殻        古谷 誠司 

白百合をゆらして少女門を出づ       宮田 聖善 

草刈機五台一斉唸りだす          石原 静世 

もろこしのでかい掻揚げ獺祭忌       檜山 火山 

夏木立小鳥に隠れ泣かうかな        増田 尚子 

どくだみの香りさびしきかくれんぼ     平尾 潮音 

花吹雪畑に切幣撒くやうに         藤  大和 

華やかに溺れてをるや夏の蝶        柳澤 和宏 

金銀花働き者で明るくて          山内ひろ子 

なすな三密枝ごと届くさくらんぼ      森  巫女 

待てば来る待つや銀座の夏燕        木村  茜 

避雷針に感知されさう鳥交る        藤本トシ子 

いとほしや指を枕の眠草          田谷 公夫 

螢狩歩兵の墓は星一つ           多田 敏弘 

見失ふための初蝶野はひららか       沼田真知栖 

帆立貝刃を噛み己れ守らんや        角田 貴彗 

緋の底に黒き十字架けしの花        宮坂 恵子

 

 

♦令和2年8月号の推薦句

 

ひと揺るぎして離れゆく蝌蚪ひとつ     中村なづな 

ジーン・セバーグのやう初夏の髪を切り   平尾 潮音 

決闘を待つごとき街春落葉         小西 弘子 

一匙一匙稚児瞬く春苺           大熊 小葉 

コロナ禍を食む青銅の蛇よ来よ       松本三美子 

花散るやせめて揺らさうイヤリング     森  巫女 

町内を統ぶる一戸の鯉幟          糸山 栄子 

機影絶えコンビナートの大夕焼       山川 漠千 

介護終へ風と来し土手夕桜         伊藤 亜紀 

運休の航路高高燕来る           筒井真由美 

隠れたり見えたり地祇の蕗の風       竹内 伸子 

自転車や麦秋抜けて麦秋へ         石原 静世 

帰らうとすれば魚飛ぶ浜五月        間宮  操 

己が胸倉にとまどふ初浴衣         五十 青史 

新茶摘む村はさみどり極まれり       天野 慧舟 

次男坊いつも敏捷し豆の花         宮本紀久代 

息止めて街の閑けさ新樹光         権藤 順子 

総身に罅ある神馬新樹光          井川 水衛 

菩提寺や目鼻うすうす甘茶仏        森﨑美保子 

病の父系無病の母系娑羅の花        山内 香月 

牛蛙こゑを歪ます自嘲すな         琲戸 七竃 

みどりの日街眠るかに鎮もれり       髙橋千鶴子 

そばかすは魅力のひとつ梨の花       橋原 涼香 

春の地球中心へ打つ鍬軽し         森岡 青潤 

柔らかき靴の出勤聖母月          古谷 誠司 

蠟石の線路くねくね子供の日        栗原 実季 

痩せてゆく村の学校つばめ来る       田辺ゆかり 

仏へと月山筍の瑞届く           髙橋 信子 

夜桜の闇深ければ灯を足さむ        渡辺多佳子 

ビリケンの大きな足裏初つばめ       白坂とよ子 

♦令和2年7月号の推薦句

 

其が影を打ち返しては春耕す        竹内 伸子 

測量の手振りが言葉陽炎へり        田端 千鼓 

花仰ぐ一僧一身悲をまとひ         岩熊 渓歩 

水仙の茎鋭角に水切りす          藤本トシ子 

春暁や月山赤子の肌の張り         加藤  仁 

どの色も寄せぬ投入れ白椿         森棟 正美 

ねむらせよ疫病の神を金瘡小草(きらんそう) 石田 福子 

着そびれて袖の空しき花衣         上本 白水 

落椿照りかげりして来る余生        平井 靜代 

卒業証この日どの名も美しく        木村 郁代 

ぬか雨に田を打つ爺を待つ仔犬       松尾 美咲 

花万朶未知の月日をふと畏れ        白坂とよ子 

春の雪ひと驚かせて消えゆけり       宮本紀久代 

紫木蓮こころの老いに欲しき杖       小野 昌子 

白馬より槍より白く辛夷咲く        木村 保夫  

葺屋根の富士の如くに坐して春       琲戸 七竃 

納屋の戸を引くや飛び込む初燕       多田 敏弘 

春満月まつたきものはみな憎し       五十 青史 

開き癖つける教科書初燕          杉浦ふみ彦 

クロッカス孤に籠ること力とす       角田 貴彗 

春深し爺さまに湯のかをりあり       中村なづな 

九十と七つの一期なごり雪         山内ひろ子 

葱坊主京都九条の名を持てり        濱名 カヨ 

時止むる手立てありせば花月夜       篠田  暘 

若草を踏めば潤みぬ忘れ水         古谷 誠司 

立ち初めし子の掌に小石春兆す       山川 漠千 

風すでに春を掴みて走りをり        森岡 青潤 

休校の子の脚六本春炬燵          西村 綾子 

水平線見つめて花を忘れをり        田中 玲子 

花冷や距離保ちつつ人恋し         大川 恵子

 

♦令和2年6月号の推薦句

 

初雲雀防火バケツの水光る         角田 貴彗 

涅槃図の遥か彼方の摩耶夫人        川村 耕泉 

ふふみゆく辛夷の花芽切符買ふ       橋原 涼香 

生きてある音さまざまに去年今年      葛西 幸子 

伊予柑に隠るる母の念持仏         木村 郁代 

啓蟄や赤児の足の指ひらく         宮田 聖善 

筆置きて思ひもかけぬ春の雪        渡部 厚子 

等伯の風神抜けて春一番          谷  就応 

少年の交はすゆびきり卒業歌        髙𣘺 敏夫 

輸入車を吐き出す巨船風光る        坂場 俊仁 

風見鶏ぐるぐるときのけの春を       家登みろく 

雀の子おじやみ放るやに飛び散れる     宮本紀久代 

草芽吹く歩道を賢こ園児達         香川  綾 

母は記憶を食べてしまひぬ木の芽雨     伊藤 亜紀 

桃色の鱗飛ばして春厨           間宮  操 

薄氷の手くぼに残る十しずく        松村 静江 

春夕べ木偶のおさんの反りかへり      平尾 潮音 

摩天楼鎮まりわたる春の闇         増田 尚子 

妣あらば降りる駅過ぎ花菜畑        青木 宣子 

真つ先に涅槃図の月解かれ出づ       大熊 小葉 

何はあれ父に生あり初音あり        加藤八寿子 

ちよろづの古雛納まり少女老ゆ       宮坂 恵子 

白鳥の助走六歩に帰りけり         小村 一幸 

絵巻物過去は右へと鳥雲に         増田 順子 

髪切りし襟元に苦来ぬ春の雪        栗原 実季 

春泥の靴跡にまた水復る          杉本喜和子 

頸伸していま飛立たむ帰白鳥        荻野 善子 

春田光る鍬休めてははるか八ヶ岳(やつ)    成島 淑子 

餌喰ひ鳥連れて週末春耕す         石澤 はる 

奉納の乳形大小木の芽張る         内田 和子 

 

♦令和2年5月号の推薦句

 

蝶の昼メトロノームの止まりさう      小野 昌子 

実存の美しく厳しく冬欅          宮本紀久代 

鳥声と目瞑り遊ぶ四温晴          松村 静江 

消息の流れ着くやに松過ぎて        竹内 伸子 

靴音のせぬ絨緞や辞令受く         木村 保夫 

開扇の音打ち揃ふ初稽古          森  巫女 

おとなにも大きな火なりどんど焼      柳澤 和宏 

サンタマリアお顔幽かの踏み絵かな     平尾 潮音 

湯豆腐や二万七千日の生          石田 福子 

歩まねば私埋るる雪の道          葛西 幸子 

おほいぬのふぐり取り散らかす碧宇     橋原 涼香 

再生の一色加へ毛糸編む          糟谷 雅枝 

冬麗や両手波立てハープ弾く        沼田真知栖 

守られてゐることに慣れ敷松葉       三井加代子 

眼めく菩薩のおへそあたたかし       木村  茜 

摘むや浅間(あさま)牙山(ぎっぱ)の剥き出しに 松本千代美 

梅一輪活けて去ります郷の家        望月津㐂子 

手焙りの尉そのままに峠茶屋        増田 尚子 

春の風鈍く吹き初む暇文          家登みろく 

奮ひ立つ漁のエンジン寒明くる       田辺ゆかり 

願書抱く駅前少女冬薔薇          乙津 秀敏 

ラガーらのポールを抜きてオフに入る    古谷 誠司 

指もみのやがて祈りに春日満つ       石澤 はる 

夫とゐるただそれだけの春炬燵       柳田 富枝 

初場所やまはしを取れば朝乃山       荻野 善子 

六度目の花期なり母の黄水仙        北浦 善一 

男等を禊ぎに送り出す焚火         阿部 明美 

このごろは死なない気がするいたち草    藤田 明子 

神棚に届かぬ齢福は内           花岡  紅 

アポロンの欠けたる腕冬の果        近藤 育夫

♦令和2年4月号の推薦句

 

日だまりは影負ふところ冬の蝶        望月津㐂子 

亡き母に勝るものなし野水仙         木下 早苗 

法名の夫のしづけさ山眠る          髙橋 信子 

黒白二鼠今年も細る命綱           津川好日子 

冬の蜂陽の香嗅ぐかに歩きをり        宮本紀久代 

寒満月めつた斬りして黒き雲         伊藤 亜紀 

妣の忌の妣とお遊び秋の雨          藤本トシ子 

雑踏に暮るる二日よ七十路          間宮  操 

初雪を掴まんと虚(こ)を掴む母         渡辺多佳子 

大輪の花まなうらに寒ごやし         安達とよ子 

薄墨のまだ白鳥になれぬ首          宮坂 恵子 

存分に影を転がし大豆干す          沼田真知栖 

触らせてもらふ福耳冬ぬくし         松本千代美 

母の代りに引きしも大吉初神籤        権藤 順子 

花マロニエ聖ドニ己が首を持ち        徳田 文三 

 セーターの母の後ろに隠れきる            柳澤 和宏 

若水に触るれば星座揺らぎけり        五十 青史 

嚶嚶と樹々のこたふる神楽かな        琲戸 七竃 

柏手に山彦が来る冬が来る          清水 雪江 

白鳥と白寿の人の笑みに会ふ         小西 弘子 

あらたまの鑽り火に力いただきぬ       水田雪中花 

こんじやうの冬休なりカプリッチオ      中村なづな 

城と温泉と坊ちやん列車初景色        林  一酔 

低気圧逸れて騒がし冬雀           栗原 実季 

徘徊の友大根を下げてをり          森田千枝子 

煮凝にふつと娘のこゑ残りゐて        田中 玲子 

七種の鬚根めでたく洗ひけり         満瀬 哲子 

千年の夢路徘徊掘炬燵            篠田  暘 

あらたまの稚の拳の珠のごと         竹内 伸子 

割り算の余りのやうな離れ鴨         平尾 潮音 

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