​「森の座」

今月の推薦句(会員の部「花樹の道」より)

♦令和3年4月号の推薦句(花樹の道より) 

餅を焼く昭和平成令和かな         成田 圭子 

山唄を天に聞かせて千空忌         葛西 幸子 

雑兵の墓は石塊冬の鵙           北山 恭子 

さてと立ち終ひ正月終ひけり        濵名 カヨ 

親しくも付かず離れず切山椒        村田  惠 

初声や若冲の鶏一斉に           津川好日子 

すつきりと生きるつもりの煤払ひ      森田千枝子 

赤べこのとぼけ顔して三日かな       大石 幸子 

里深雪覆はれてより見ゆるもの       杉本喜和子 

時に火は人のかたちに大どんど       阿部みづき 

為来りに慣らふ料理や去年今年       髙田美津子 

山茶花を掃き寄せ睦む爺と孫        森﨑美保子 

よく眠る白障子てふ繭の中         宮坂 恵子 

ふかぶかと口中の虚寒の鯉         竹内 伸子 

飽食に感けお節の蝦や鯛          谷  就応  

腰立つることが休息雪卸し         髙橋 信子 

立春の大歳時記をどさと割る        田端 千鼓 

初詣親子そろつて表付(おもてつき)      五十 青史 

寒林や人ならぬ音ついてくる        小西 弘子 

元朝の誰待つでなく待つこころ       一戸  鈴 

この先も夫の墓守れ龍の玉         清水 雪江 

荊妻と帰る銭湯湯ざめすな         笠原十九司 

何事も無きかの如く三箇日         神谷小百合 

綿虫や孫叱らるる声痛し          間宮  操 

輪飾りを母押すカートにも一つ       柳澤 和宏 

鳩雀みんなご近所お正月          新井みほ子 

冬ざくら決してさみしいとは言はぬ     平尾 潮音 

喪ごころにあかだまの実をいとほしむ    田中 玲子 

若水に替へて小鳥を待ちにけり       吉田 遼吉 

息詰まる日々の中なり初笑         小原けい子

♦令和3年3月号の推薦句(花樹の道より) 

 

風よりも泥のぬくとよ蓮根掘        田辺ゆかり 

母さんの爪切りに行く小春かな       北山 恭子 

謐けさに息止まるほど冬の蝶        竹内 伸子 

ともかくも亥の日の暖房始めかな      濵名 カヨ 

母真似て我も七十吊柿           榊原 淑友 

子の子はやわが丈となりお正月       平尾 潮音 

冬落暉軍艦島の燃え上がる         松尾 美咲 

雪吊の松花結び高く見ゆ          田村 幸子 

行く秋や音に震へる撞木の緒        大島 良子 

溜息の三四十二か十二月          琲戸 七竃 

大きさを手柄のやうに朴落葉        太田 量子 

はづされて積まれて絵馬や師走空      曾我 欣行 

嫁ぐ日近き孫の横顔枇杷の花        宮﨑 嘉子 

冬の虫軽く揉まれてなにもなし       中村なづな 

一言で謂へば「退屈」日向ぼこ       谷  就応  

掻きつつも積もる速さの雪の声       清水 雪江 

白鳥の離れふたたび水黒む         家登みろく 

大好きなマフラーが来る日曜日       橋原 涼香 

前衛峰(ジャンダルム)の垂直の空鷹舞へり  髙𣘺 敏夫 

大くさめ八方の目の芯となる        田端 千鼓 

次々と妻の指図や年迫る          坂場 俊仁 

風の音全音上がり年果つる         大野 和代 

なぜなぜの止まぬ幼子冬たんぽぽ      栗原 実季 

煖炉の火育てるまでの寡黙かな       木村 保夫 

介護五年御用納めの無き五年        五十 青史 

しぐるるや傘に聞きたき母の声       小西 弘子 

クリスマス光の中を帰りけり        小原けい子 

流されし距離を戻れり浮寝鳥        小村 一幸 

神へ子の礼ふかぶかと山眠る        伊藤 亜紀 

小春日の涅槃悠悠阿蘇五岳

♦令和3年2月号の推薦句(花樹の道より) 

冬桜少女の櫂は音立てず          栗原 実季 

枯蟷螂動く途中の様をして         田端 千鼓 

裏窓に都電の響き花八ツ手         木村 保夫 

お茶の花母は卒寿となりにけり       髙橋千鶴子 

腰おろす母冬薔薇の日だまりに       松本千代美 

京に生れ京のたつきや室の花        松村 千鶴 

雀群れ雀の空や一茶の忌          間宮  操 

目力のだるま大師やはぜ紅葉        森田千枝子 

ただ歩くことを日課に返り花        小原けい子 

美容室の鏡離るる冬夕焼          小林 迪子 

手水舎に石工の名前小鳥来る        光井加代子 

行く秋の回転木馬走り了へ         加藤八寿子 

握る手の離し難さに山茶花散る       家登みろく 

柿食へば妻の遠忌が近づくよ        佐久間健治 

雪迎へむかへにいつてそれつきり      宮坂 恵子 

抱かれて少女に触るる芒かな        宮田 聖善 

マストめく古松の支へ小鳥来る       岸本 千絵 

秋高し直線無敵の三冠馬          木村せい子 

鮮やかな舅の手わざ一夜鮨         宮本紀久代 

鬱ぎゐて母恋ふる日の菊膾         糟谷 雅枝 

散るときは拳のかたち白芙蓉        吉田健一郎 

短日や絞らずに干す柔道着         大川 恵子 

秋桜の色を束ねて備前壺          小野 昌子 

転居未だ旅情めきたる初時雨        清水 雪江 

褒められもせず足速の白鶺鴒        加藤  仁 

林檎捥ぐ津軽の空を軽くして        小田桐素人 

誘ひても出て来ぬ母や月明し        柳澤 和宏 

平凡な距離を保つよ浮寝鳥         木村  茜 

父の忌や手水に揺るる弓張月        大熊 小葉 

けむり茸影踏み鬼に加はりぬ        角田 貴彗

♦令和3年1月号の推薦句(花樹の道より) 

 

一粒一粒膨らむ明日青葡萄         沼田真知栖 

後藤伍長像視界の中の通草採り       田端 千鼓 

山叺雀の学校(がっこ)の忘れもの      宮坂 恵子 

秋茄子をもう一つ載せ小商ひ        竹内 伸子 

幾たびも梯子掛け替へりんご捥ぐ      成田 圭子 

吾亦紅聖画描きてサインせず        安部眞希子 

しのこした事はこととし蛇穴へ       山口 高子 

下駄の歯を減らし下駄替へ夏終る      加藤  仁 

我立つはジュラ紀の大地流星群       木村 保夫 

曼殊沙華夢の中にも曼殊沙華        光井加代子 

どうなつても良き心地せり秋の山      髙田美津子 

水蜜桃の香にいつぱいのほとけさま     平井 靜代 

名月や在らば朗らの姉二人         木村せい子 

約束をきれいに忘れ草の絮         髙野よし子 

秋爽の雲に預くる旅ごころ         谷  就応

青みかん嚢は火とぼしごろの色       中村なづな 

残心の構へ律々しや秋高し         小田桐素人 

秋耕の一上一下老の鍬           柳沢 治幸 

大津絵の鬼と向きあひ秋うらら       木村  茜 

溢蚊のよろよろと来て鋭くも刺す      木村 郁代 

忘れる日思ひ出す日や草の花        大川 恵子 

師晶子しのぶ新酒にしをり初む       田中 玲子 

二メートル心を隔てそぞろ寒        平尾 潮音 

騾馬の前髪結ひて上げたし秋桜       多田 敏弘 

どつこいしよ立つも坐るも鰯雲       石田 福子 

老舗ちふ矜恃畳めぬ秋の風         宮本紀久代 

またしても熊の出没ばつたんこ       水田雪中花 

羽根伏せてとんぼ目玉で考へる       吉田健一郎 

木の実降り次つぎ生るる水輪かな      飛田 伸夫 

手づかみが似あふおむすび稲刈れり     中村 百仙 

♦令和2年12月号の推薦句(花樹の道より) 

  

かなかなの水湧くやうに鳴きにけり     渡辺多佳子 

大地まだ踏まぬ赤子や天高し        登川 笑子 

洗ひ馬脛の静脈浮き立てり         多田 敏弘 

瞳も唇も眉も十五の夏光る         竹内 伸子 

おひねりのやうに閉ぢゐる月見草      武田 詩子 

研ぎ終へし出刃の切れ味涼新た       成田 圭子 

秋霖のしづかに午後をうばひけり      宮本紀久代 

小鳥来るどんどん並ぶ泥団子        栗原 実季 

秋あはれきりんは立つたまま眠る      髙橋由紀子 

ひと雨の涼しさを連れ母を訪ふ       木村 郁代 

縺れつつ乳追ふ仔牛秋桜          橋原 涼香 

衣被つるりと祖母の子沢山         小林 和子 

一位の実触れてこぼるる火のごとし     一戸  鈴 

夏惜しむガラスの器揃ふ卓         佐々木あや子 

灸花みんなゆるしてもらひけり       村田  惠

懐郷のうすれゆく夫雁来紅         間宮  操 

病葉の瓦を滑る暑さかな          大木 黄秀 

遠山に呼ばるるごとし明易し        沼田真知栖 

紺碧のつくもの浜に鰯来る         岡本 幸子 

秋鯖の糶り残されし鈎の痕         五十 青史 

妹が姉に思へる稲の秋           髙田美津子 

更けてなほ戸締り惜しむ良夜かな      佐々木龍雄 

物忘れ字忘れつるべ落しかな        平井 静代 

ゐのこづち付く路恋し旅恋し        小西 弘子 

十まりの鈴虫の朝なま臭し         中村なづな 

風鈴の一斉に鳴る不安かな         伊藤 亜紀 

幾月も笑ひ忘るる吾亦紅          甲斐 酒巷 

日常といふ脆きもの秋刀魚焼く       小原けい子 

静臥すれば音よく立つる秋簾        柳澤 和宏 

補聴器の音とよみたつ秋暑し        田中 玲子

♦令和2年11月号の推薦句(花樹の道より) 

少年のどこか危ふし長なすび        木村  茜 

背泳ぎの空に雲浮くわたし浮く       橋原 涼香 

足鰭をひらりくるりと蜑すずし       琲戸 七竃 

子守宮の親より高く壁に居る        木村 保夫 

花茣蓙の香りの中を這ふ子かな       曽我 欣行 

蜘蛛の子のいのち軽々はこびけり      嶋村 健嗣 

金網に食ひ込む白球雲の峰         栗原 実季 

烏瓜の花綿飴のごと萎む          渡辺 厚子 

盆花のあふれて佛間調へり         髙橋 信子 

噴水を眩しみ耳をあづけをり        田村 幸子 

あぢさゐの雨の重さを掌          宮坂 恵子 

晴れ晴れと鳴く蟬啣へ猫帰る        青木 宣子 

蓮弁に触るるやそれは天衣         小林 和子 

鳴らずとも耳の底には祭笛         藤田 明子 

受診待つ骨まで透けて熱帯魚        竹内 伸子

一匹の蠅追ひ回す敗戦忌          篠田  暘 

年々や声の老いゆく金魚売         田端 千鼓 

教会へ回覧板や花いばら          髙木 喜代 

臥せ牛のやをら立ちゆく日雷        田辺ゆかり 

広島忌ホースの水を天へ撒く        小泉 光子 

氷山の崩壊音か冷蔵庫           谷  就応 

まだ余韻残るグランド夏の雲        松尾 美咲 

蟬しぐれ九九のいやいや7の段       石田 福子 

盆過ぎの無常や風のちぎれ雲        田中 玲子 

大工らの木の香に浸り三尺寝        小林 迪子 

大南風に心帽子のやうに飛ぶ        家登みろく 

誕辰の母を誘ひて銀河見し         権藤 順子 

素団子ゆらゆら煮えて送り盆        松田 範子 

夕食の仕度早目に巨人戦          奈良 竜胆 

白靴を父に揃へし日もありし        増田 順子

♦令和2年10月号の推薦句(花樹の道より) 

 

鼻も口も塞がず通る青田道         山内ひろ子 

明易く夫の気配の既に無く         板鼻 弘子 

茉莉花に父の逸話のあまたたび       柳澤 和宏 

飄々と来て恩師去る昼寝覚         加藤  仁 

スケボーを蹴上ぐや炎暑の打撃音      古谷 誠司 

箸置きはガラスの一葉夏座敷        伊藤 青砂 

子と二人蛇の住む家守りけり        山口 高子 

父の遠忌ぐんぐん育つ夏の雲        木村せい子 

初茄子を細かに刻み母の膳         松本千代美 

影と来て光となるや夏燕          角田 貴彗 

追伸の一筆の重梅雨黄蝶          間宮  操 

夏灯隙間だらけの農具小屋         田端 千鼓 

語らねば知らぬも同じ終戦忌        吉田 遼吉 

妻がゐてこの世にもどる昼寝覚       吉田健一郎 

刻刻と匂ふ白百合誕生日          栗原 実季 

六甲は疾うにびしよぬれ額の花       渡辺多佳子 

十薬を干してつくづく祖母遠忌       篠田  暘 

当主老い外が大好き夏つばめ        髙田美津子 

山門に仁王の許す蟻地獄          小西 弘子 

凌霄の豪奢な庇地蔵堂           大熊 小葉 

知らぬ間に少女となりて髪洗ふ       本村ゆう湖 

次次と開くせはしさ茄子の花        大島 良子 

青竹の手水を受けて夏祓          吉原 照子 

宅配の置いてすぐ去る夏燕         岸本 千絵 

麦秋の波の載せたる農一戸         伊藤 亜紀 

帰りにはもう新しき植田風         松尾 美咲 

木下闇骨浮く猫の息遣ひ          橋原 涼香 

庭中のどくだみ干して午となる       大村 生雲 

父と母は明治の子ども雲の峰        平尾 潮音 

口実に想定外とよ蜥蜴逃ぐ         安部眞希子 

♦令和2年9月号の推薦句(花樹の道より) 

 

線香の丈より小さき甘茶仏         加藤  仁 

ゆるやかに確と岩木山の更衣        三上悠恵子 

横倒しのゴールポストや麦の秋       山本  剛 

鮎を待つ魚道この世の転換期        太田 量子 

けふ一ト日一汁一菜桐の花         新井みほ子 

辣薤を洗ふ都知事は新語生む        小林 和子 

夏椿花より先に影の落つ          田端 千鼓 

胸病みし頃思はでか昭和の日        伊藤 青砂 

石斛や履物少しづつ直す          中村なづな 

蚊遣火の渦の崩れに夜の軌跡        宮本紀久代 

妻たらず母たらず老い桐の花        平井 靜代 

かりそめがいつしかひと世新茶汲む     竹内 伸子 

梅雨湿り雨戸をだましだまし引く      石田 福子 

底つ根のまつたき飴色蝉の殻        古谷 誠司 

白百合をゆらして少女門を出づ       宮田 聖善 

草刈機五台一斉唸りだす          石原 静世 

もろこしのでかい掻揚げ獺祭忌       檜山 火山 

夏木立小鳥に隠れ泣かうかな        増田 尚子 

どくだみの香りさびしきかくれんぼ     平尾 潮音 

花吹雪畑に切幣撒くやうに         藤  大和 

華やかに溺れてをるや夏の蝶        柳澤 和宏 

金銀花働き者で明るくて          山内ひろ子 

なすな三密枝ごと届くさくらんぼ      森  巫女 

待てば来る待つや銀座の夏燕        木村  茜 

避雷針に感知されさう鳥交る        藤本トシ子 

いとほしや指を枕の眠草          田谷 公夫 

螢狩歩兵の墓は星一つ           多田 敏弘 

見失ふための初蝶野はひららか       沼田真知栖 

帆立貝刃を噛み己れ守らんや        角田 貴彗 

緋の底に黒き十字架けしの花        宮坂 恵子

 

 

♦令和2年8月号の推薦句

 

ひと揺るぎして離れゆく蝌蚪ひとつ     中村なづな 

ジーン・セバーグのやう初夏の髪を切り   平尾 潮音 

決闘を待つごとき街春落葉         小西 弘子 

一匙一匙稚児瞬く春苺           大熊 小葉 

コロナ禍を食む青銅の蛇よ来よ       松本三美子 

花散るやせめて揺らさうイヤリング     森  巫女 

町内を統ぶる一戸の鯉幟          糸山 栄子 

機影絶えコンビナートの大夕焼       山川 漠千 

介護終へ風と来し土手夕桜         伊藤 亜紀 

運休の航路高高燕来る           筒井真由美 

隠れたり見えたり地祇の蕗の風       竹内 伸子 

自転車や麦秋抜けて麦秋へ         石原 静世 

帰らうとすれば魚飛ぶ浜五月        間宮  操 

己が胸倉にとまどふ初浴衣         五十 青史 

新茶摘む村はさみどり極まれり       天野 慧舟 

次男坊いつも敏捷し豆の花         宮本紀久代 

息止めて街の閑けさ新樹光         権藤 順子 

総身に罅ある神馬新樹光          井川 水衛 

菩提寺や目鼻うすうす甘茶仏        森﨑美保子 

病の父系無病の母系娑羅の花        山内 香月 

牛蛙こゑを歪ます自嘲すな         琲戸 七竃 

みどりの日街眠るかに鎮もれり       髙橋千鶴子 

そばかすは魅力のひとつ梨の花       橋原 涼香 

春の地球中心へ打つ鍬軽し         森岡 青潤 

柔らかき靴の出勤聖母月          古谷 誠司 

蠟石の線路くねくね子供の日        栗原 実季 

痩せてゆく村の学校つばめ来る       田辺ゆかり 

仏へと月山筍の瑞届く           髙橋 信子 

夜桜の闇深ければ灯を足さむ        渡辺多佳子 

ビリケンの大きな足裏初つばめ       白坂とよ子 

♦令和2年7月号の推薦句

 

其が影を打ち返しては春耕す        竹内 伸子 

測量の手振りが言葉陽炎へり        田端 千鼓 

花仰ぐ一僧一身悲をまとひ         岩熊 渓歩 

水仙の茎鋭角に水切りす          藤本トシ子 

春暁や月山赤子の肌の張り         加藤  仁 

どの色も寄せぬ投入れ白椿         森棟 正美 

ねむらせよ疫病の神を金瘡小草(きらんそう) 石田 福子 

着そびれて袖の空しき花衣         上本 白水 

落椿照りかげりして来る余生        平井 靜代 

卒業証この日どの名も美しく        木村 郁代 

ぬか雨に田を打つ爺を待つ仔犬       松尾 美咲 

花万朶未知の月日をふと畏れ        白坂とよ子 

春の雪ひと驚かせて消えゆけり       宮本紀久代 

紫木蓮こころの老いに欲しき杖       小野 昌子 

白馬より槍より白く辛夷咲く        木村 保夫  

葺屋根の富士の如くに坐して春       琲戸 七竃 

納屋の戸を引くや飛び込む初燕       多田 敏弘 

春満月まつたきものはみな憎し       五十 青史 

開き癖つける教科書初燕          杉浦ふみ彦 

クロッカス孤に籠ること力とす       角田 貴彗 

春深し爺さまに湯のかをりあり       中村なづな 

九十と七つの一期なごり雪         山内ひろ子 

葱坊主京都九条の名を持てり        濱名 カヨ 

時止むる手立てありせば花月夜       篠田  暘 

若草を踏めば潤みぬ忘れ水         古谷 誠司 

立ち初めし子の掌に小石春兆す       山川 漠千 

風すでに春を掴みて走りをり        森岡 青潤 

休校の子の脚六本春炬燵          西村 綾子 

水平線見つめて花を忘れをり        田中 玲子 

花冷や距離保ちつつ人恋し         大川 恵子

 

♦令和2年6月号の推薦句

 

初雲雀防火バケツの水光る         角田 貴彗 

涅槃図の遥か彼方の摩耶夫人        川村 耕泉 

ふふみゆく辛夷の花芽切符買ふ       橋原 涼香 

生きてある音さまざまに去年今年      葛西 幸子 

伊予柑に隠るる母の念持仏         木村 郁代 

啓蟄や赤児の足の指ひらく         宮田 聖善 

筆置きて思ひもかけぬ春の雪        渡部 厚子 

等伯の風神抜けて春一番          谷  就応 

少年の交はすゆびきり卒業歌        髙𣘺 敏夫 

輸入車を吐き出す巨船風光る        坂場 俊仁 

風見鶏ぐるぐるときのけの春を       家登みろく 

雀の子おじやみ放るやに飛び散れる     宮本紀久代 

草芽吹く歩道を賢こ園児達         香川  綾 

母は記憶を食べてしまひぬ木の芽雨     伊藤 亜紀 

桃色の鱗飛ばして春厨           間宮  操 

薄氷の手くぼに残る十しずく        松村 静江 

春夕べ木偶のおさんの反りかへり      平尾 潮音 

摩天楼鎮まりわたる春の闇         増田 尚子 

妣あらば降りる駅過ぎ花菜畑        青木 宣子 

真つ先に涅槃図の月解かれ出づ       大熊 小葉 

何はあれ父に生あり初音あり        加藤八寿子 

ちよろづの古雛納まり少女老ゆ       宮坂 恵子 

白鳥の助走六歩に帰りけり         小村 一幸 

絵巻物過去は右へと鳥雲に         増田 順子 

髪切りし襟元に苦来ぬ春の雪        栗原 実季 

春泥の靴跡にまた水復る          杉本喜和子 

頸伸していま飛立たむ帰白鳥        荻野 善子 

春田光る鍬休めてははるか八ヶ岳(やつ)    成島 淑子 

餌喰ひ鳥連れて週末春耕す         石澤 はる 

奉納の乳形大小木の芽張る         内田 和子 

 

♦令和2年5月号の推薦句

 

蝶の昼メトロノームの止まりさう      小野 昌子 

実存の美しく厳しく冬欅          宮本紀久代 

鳥声と目瞑り遊ぶ四温晴          松村 静江 

消息の流れ着くやに松過ぎて        竹内 伸子 

靴音のせぬ絨緞や辞令受く         木村 保夫 

開扇の音打ち揃ふ初稽古          森  巫女 

おとなにも大きな火なりどんど焼      柳澤 和宏 

サンタマリアお顔幽かの踏み絵かな     平尾 潮音 

湯豆腐や二万七千日の生          石田 福子 

歩まねば私埋るる雪の道          葛西 幸子 

おほいぬのふぐり取り散らかす碧宇     橋原 涼香 

再生の一色加へ毛糸編む          糟谷 雅枝 

冬麗や両手波立てハープ弾く        沼田真知栖 

守られてゐることに慣れ敷松葉       三井加代子 

眼めく菩薩のおへそあたたかし       木村  茜 

摘むや浅間(あさま)牙山(ぎっぱ)の剥き出しに 松本千代美 

梅一輪活けて去ります郷の家        望月津㐂子 

手焙りの尉そのままに峠茶屋        増田 尚子 

春の風鈍く吹き初む暇文          家登みろく 

奮ひ立つ漁のエンジン寒明くる       田辺ゆかり 

願書抱く駅前少女冬薔薇          乙津 秀敏 

ラガーらのポールを抜きてオフに入る    古谷 誠司 

指もみのやがて祈りに春日満つ       石澤 はる 

夫とゐるただそれだけの春炬燵       柳田 富枝 

初場所やまはしを取れば朝乃山       荻野 善子 

六度目の花期なり母の黄水仙        北浦 善一 

男等を禊ぎに送り出す焚火         阿部 明美 

このごろは死なない気がするいたち草    藤田 明子 

神棚に届かぬ齢福は内           花岡  紅 

アポロンの欠けたる腕冬の果        近藤 育夫

♦令和2年4月号の推薦句

 

日だまりは影負ふところ冬の蝶        望月津㐂子 

亡き母に勝るものなし野水仙         木下 早苗 

法名の夫のしづけさ山眠る          髙橋 信子 

黒白二鼠今年も細る命綱           津川好日子 

冬の蜂陽の香嗅ぐかに歩きをり        宮本紀久代 

寒満月めつた斬りして黒き雲         伊藤 亜紀 

妣の忌の妣とお遊び秋の雨          藤本トシ子 

雑踏に暮るる二日よ七十路          間宮  操 

初雪を掴まんと虚(こ)を掴む母         渡辺多佳子 

大輪の花まなうらに寒ごやし         安達とよ子 

薄墨のまだ白鳥になれぬ首          宮坂 恵子 

存分に影を転がし大豆干す          沼田真知栖 

触らせてもらふ福耳冬ぬくし         松本千代美 

母の代りに引きしも大吉初神籤        権藤 順子 

花マロニエ聖ドニ己が首を持ち        徳田 文三 

 セーターの母の後ろに隠れきる            柳澤 和宏 

若水に触るれば星座揺らぎけり        五十 青史 

嚶嚶と樹々のこたふる神楽かな        琲戸 七竃 

柏手に山彦が来る冬が来る          清水 雪江 

白鳥と白寿の人の笑みに会ふ         小西 弘子 

あらたまの鑽り火に力いただきぬ       水田雪中花 

こんじやうの冬休なりカプリッチオ      中村なづな 

城と温泉と坊ちやん列車初景色        林  一酔 

低気圧逸れて騒がし冬雀           栗原 実季 

徘徊の友大根を下げてをり          森田千枝子 

煮凝にふつと娘のこゑ残りゐて        田中 玲子 

七種の鬚根めでたく洗ひけり         満瀬 哲子 

千年の夢路徘徊掘炬燵            篠田  暘 

あらたまの稚の拳の珠のごと         竹内 伸子 

割り算の余りのやうな離れ鴨         平尾 潮音 

♦令和2年3月号の推薦句

願はくは紡いでもみん舞ふ雪を       成田 圭子  

かの森に還る日あらん冬日和        小島 露峰 

廃材の切口の無垢焼藷屋          木村  茜 

酒星へ酒を奉ずること隔日         徳田 文三 

狐火やデブリ除くといふ神話        角田 貴彗 

めくられぬままの日めくり日短       橋原 涼香 

枯蔦を引くや忘るることも愛        家登みろく 

蛸壺の底に塩噴く師走風          多田 敏弘 

老いてなほ倥偬のさま年の暮        佐久間健治 

冬日燦聖者の如き医師の死よ        岩熊 渓歩 

小春日やポストの点字に触れてみる     佐藤 和子 

手から手へ流し新米銀びかり        沼田真知栖 

肝胆のこのいどこまで冬日没る       中村なづな 

来ん年のことは来ん年大晦日        五十 青史 

抱き上げて小春の空の真ん中へ       竹内 伸子 

蜜柑捥ぐ日の色一つ一つ捥ぐ        小泉 光子 

アクリル板越しの説諭や底冷す       木村 保夫 

十二月八日仏滅寝て過ごす         杉浦ふみ彦 

ひよんの笛吹いてちちはは近うせり     平塚 泱子 

物干して女安らぐ冬日和          二宮木の実 

嫁取りの進まぬここら風花す        小林 迪子 

聞き取れぬテープの志ん生漱石忌      平尾 潮音 

眩しきは朝一番の霜の花          栗原 実季 

茶の花や夫逝きてより夫を知る       平井 靜代 

富士山の晴ればれ勤労感謝の日       石田 福子 

俯ける蕊のみ明かし冬桜          松本千代美 

故郷遠し馬の眼の奥黒く寒く        琲戸 七竃 

をちこちの家電に呼ばれ十二月       阿部みづき 

缶切りの要らぬ缶詰開戦日         篠田  暘 

枸杞の実の鎖たわみて藪の中        大木 黄秀