​「森の座」

特別作品集

♦令和2年9月号掲載

「この街」  田山康子

 

火ぶくれの街や蝉声とめどなく 

かすかにも空衰へて秋立てり 

処暑の文ポストに墜ちて黙りゐる 

秋風の立つ朝玉子かけごはん 

鰯雲あてずつぽうにバスに乗り 

スタジアム建設現場鳥渡る 

西空が真つ赤秋鯖焼く匂ひ 

大学はいま黄落の底に在り 

帽子屋の楕円の鏡漱石忌 

ジョギングやアルミ貨ほどの冬の月 

教会の天井に棲む冬の蜘蛛 

「酒場ルパン」「珈琲ルオー」みな時雨 

冬星座大病院は砦成す 

北風連れて発つ夜行バス副都心 

雪まみれなり山の手も下町も 

人日や千円紙幣(さつ)の裏に富士 

裸婦像の大きくるぶし地虫出づ 

三階に授乳室ある雛老舗 

抽斗に落花散り込むレジスター 

折鶴の仕上げ暮春の息ふつと 

花は葉にラシャ裁つ男の金指輪 

あいまいな太陽映る菖蒲池 

腰で穿く男袴やかきつばた 

この街に路地の切れ端金魚玉 

町会の訃報が二つ白あぢさゐ 

餡曇る坂の菓子舗のくずざくら 

急がざるベンチの将棋大緑蔭 

迷走の蟻に湾岸昏れなずむ 

爽涼と海の端跨ぐモノレール 

雷去りて羽田空港灯の沸けり 

♦令和2年4月号掲載

「隠岐晩春」 北島大果

叢雲の島うかがふに花吹雪 

  隠岐国分寺 二句 

洪鐘に飛天の天女花吹雪く 

天を指す行(あん)在所(ざいしょ)の碑落花敷く 

逝く春や牛突き場へ浄め塩 

牛突きの刻いとほしむ落花かな 

砂を蹴る闘牛咲く花息とめて 

闘ひし牛の眼春に戻りけり 

勝ち牛の辺りを払ひ花へ吼ゆ 

負け牛を飛燕しきりに慈しむ 

  一の宮 三句 

花湧くや隠岐には多に菊の紋 

松の芯燭のごとしや一の宮 

春雨の情に崩るる檜皮葺 

島深し都の彩の紫木蓮 

  玉若酢命神社 

八百杉(やをすぎ)や惜春の空傾けて 

     ※樹齢約二千年 

春星に紛るる島の小灯台 

  西ノ島にて 四句 

稜線に牛立ち群青春の潮 

永き日や潮風に濡れ隠岐の牛 

崖に果つ群狼の波雉子の声 

放牛の若草求め崖下る 

  隠岐神社 二句 

歌碑に春嘆きを岩に閉ぢ込めて 

みささぎや由々しきほどに椿落つ 

花散りて紺革まる隠岐の海 

母の忌以後春のオリオン傾(かたぶ)きぬ 

シリウスは洋上の奥春の逝く 

春の星座に洋で再会島泊り 

わだなかの禱りに応へ春北斗 

岸壁のリヤカー鯵の帰漁待つ 

舫ひ綱にたんぽぽが咲き流人島 

島の鳥獣虫魚へ汽笛春を去る 

陸は初夏遊ぶ雀に上陸す 

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